Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
「この子、家で飼おうとは思わなかったの?」
そこまで懐いているのなら、飼っても良かったと思うのに……と、エミリの見よう見まねでヴァルトの頭を撫でている二ファが、彼女に問いかける。
エミリは、優しい表情でヴァルトをその目に映しながら答えた。
「私も飼うかどうか迷いました。でも、やっぱりこの子は鳥だから……広い森で自由に生きることの方が、この子にとって良いんじゃないかって思ったんです」
「そっか」
せっかく逞しい羽があるのだから、狭い空間などではなく、もっと大きな世界で生きてほしいと思った。
「……あと、壁外で狼から私を助けてくれたのは、この子なんですよ」
「え、この子が……?」
「はい。身につけていたこのフクロウの鈴の音に反応して、来てくれたんです」
グリシャから誕生日のプレゼントで貰ったフクロウの鈴。これは、職人に注文して作ってもらった物だった。
フクロウは聴覚が優れている生き物だ。音を聞き分け、獲物の位置を特定することができる。
そこでグリシャは、この特徴を活かすことにした。ヴァルトを呼び寄せる際、音でエミリの存在を認識できるようにすれば良いのではないかと。
そして、鈴の音にも工夫を凝らして欲しいと職人に頼み、世界に一つしかない鈴が出来上がったのだ。
「ヴァルトを拾った時、この子はまだ雛鳥で、その頃からずっとこの鈴の音を聞いていました。だからきっと、ヴァルトにとって一番馴染みのある音は、この鈴の音なんです」
ヴァルトの怪我が治って森に帰した後も、そこへ遊びに行く度に鈴の音を鳴らして呼びかけていた。
ヴァルトは、その音をしっかりと覚えていたのだ。だから、狼に襲われた拍子で鳴り響いた鈴の音から、エミリの存在と位置を特定し、助けてくれた。
(たまたま同じ森にヴァルトがいたのは、本当に奇跡だったなぁ……)
もし、ヴァルトがその森にいなかったら。エミリは、狼に食い殺されていただろう。