Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
そこには、エミリが求めていた物を手にしたフィデリオが立っていた。
紐から吊り下げられている鈴は、風に揺られてリンリンと涼し気な音を奏でている。
「これだろ。あと、手袋」
そう言って今度は、反対の手に白の長手袋を取り出して見せる。
「何で、それ……」
フィデリオが長手袋を持っていたことに驚いたエミリが、信じられないといった表情を浮かべる。
「いや、まあ……なんつーか、もしかしたらまた会えるかもと思って、俺も持ってきてた」
懐かしげに目を細めるフィデリオの視線は、あの鳥の方に固定されていた。それに気づいたペトラは、同じように鳥へ視線を向けてフィデリオに問いかける。
「ということは……フィデリオもあの鳥のことを知っているの?」
「まあな。昔、よく遊んだから」
昔、ということは、まだシガンシナに超大型と鎧の巨人が出現する、もっと前なのだろう。
また会えたことに喜びを感じているのか、フィデリオは嬉しそうな顔を見せる。
「ほら」
リヴァイに支えられ立っているエミリに、鈴と笛、そして長手袋を渡した。
「ありがとう」とそれらを受け取ったエミリは、首から鈴と笛を下げ、左手に長手袋を嵌める。
「…………来て、くれるかな……?」
この笛で呼びかけるのは久々だ。少し緊張する。
けれど、”あの森”で鈴の音に反応して来てくれたのだ。きっと、覚えてくれているはず……
胸元で今もリンリンと鈴が音を鳴らす中、エミリは笛を口に咥えた。
ピーーーーッ!!
大きな笛の音が、まるで風を突き刺すかのように一直線に響き渡る。それに反応した兵士たちが、動きを止めて音の発生源であるエミリに注目した。
音の余韻が空気を彷徨う。それが少しずつ消えてしまう前に、エミリは左腕を前に突き出す。そして、大きく口を開け、声を放った。
「ヴァルト!!」