Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
「あれは、ハンジさんのせいじゃありません」
そう、誰も悪くない。常に危険といわれる壁外で起きた、どうしようもない事故なのだ。
だから、エミリがハンジを責める理由はないし、そもそも彼女は何も悪いことなどしてない。それどころか、必死で助けようとしてくれた。その心だけで十分だった。
「……ハンジさん」
自分を抱き締めているハンジの腕に、そっと両手を添える。
「ありがとうございます」
「え……」
「私のこと、大切に思ってくれて」
エミリの言葉と彼女が見せる笑顔に、ハンジは胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
切ない、けれど温かい。
はっきりとしたものはわからないけれど、それでもこの胸の締めつけは、何だか心地よかった。
「……無事で、良かった……」
手が届かなかった時の喪失感は、今でも心に残っている。ぽっかりと穴が空いたせいで出来た心の隙間。
それが、少しずつ埋められていく。
「戻って来てくれて、ありがとう……」
謝罪なんかよりも、エミリが一番欲しいであろう言葉。今度はそれを、辛そうな顔でも苦しそうな顔でもなく、彼女と同じ笑顔を自分の顔に乗せて伝えた。
「ただいまです! ハンジさん!」
そうすれば、思った通り。朝日のような柔らかい笑顔をまた返してくれた。
「エミリ……」
そんなエミリをもう一度抱き締めようと、ハンジは腕に力を込めた。
「おい、ハンジ」
その時、ハンジの背後から聞こた低い声に、エミリたちを包んでいた空気が一変する。
「さっさとエミリから離れろ」
「うおおっ!?」
エミリから引き剥がされたハンジは、突然の出来事に少し困惑した表情を浮かべている。
そんな彼女の首根っこを掴んでいるのは、リヴァイだった。
「あれ、兵長? いつの間に……」
しかも、その隣にはエルヴィンやモブリットらハンジ班の面々も揃っている。
いつ部屋に入っていたのだろうか。とりあえず状況を説明してほしくて、苦笑を浮かべているペトラの方へ向いた。