Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
バタンッ!
勢いよく医務室の扉が開く音に、二人は体をビクリと跳ねさせる。
「……エミリ?」
扉を開けた人物は、ハンジだった。急いで駆けつけたのだろうか、額には汗が滲み少し息が荒い。
「ハンジさん……どうかされました?」
どこか必死な表情で、入口に突っ立ったままでいるハンジの様子がいつもと違い、エミリは少し不安になった。とにかく体を起こそうと布団に肘をついて力を入れる。
「エミリ、ダメよ。まだ横になってなきゃ」
「でも……」
起き上がろうとするエミリをペトラが慌てて止める。
壁外で心身ともに大きなダメージを受けただけでなく、意識が戻ったばかりなのだから、大人しく横になっている方が正しい。
けれど、エミリはどうしてもハンジと話がしたかった。とても思い詰めたような表情をしているから……
「……あの、ハンジさん」
ペトラの制止も振り払い、状態を起こしたエミリは、枕に背を預け座った。そんな彼女に、ペトラは呆れたような顔を見せる。
冷たい視線を向ける親友を見て見ぬふりし、エミリはもう一度、ハンジに声を掛けた。
ハンジは、無言のままゆっくりとエミリのベッドの脇へ移動する。そして、
「……ハンジ、さん?」
ぎゅっと、エミリを強く抱き締めた。
突然の彼女の行動に困惑したエミリは、声を掛けることができず、ただハンジの腕の中で瞬きを繰り返していた。
「すまない」
「……え?」
ハンジから発せられた謝罪の言葉。何故、彼女が謝っているのか、エミリにはそれが理解できなかった。
「……ど、どうしてハンジさんが謝るんですか?」
エミリが問うと、抱き締める腕に更に力が込められる。少しだけ苦しさを感じながらも、エミリは黙って答えを待った。
「あの時、君を助けられなかったことだ……」
助けられなかった。そこから、あの時が何時を示しているのか、すぐに理解した。