Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
「……壁外調査は?」
「もうとっくに終わってる。エミリは帰還してから、ほぼ丸一日眠っていた状態だったの」
「……そう、だったんだ……」
まさかそんなにも気を失っていたとは思わず、自分に対する呆れから、エミリはゆっくりと息を吐いた。
(……わたし、また、兵長に助けて貰ったんだよね)
初めてリヴァイと出会った時から、何度彼に救われただろう。
どこまでも守られてばかりの自分が情けない。兵団の役に立つどころか、これではお荷物と変わらない。
「…………バカだなあ、わたし」
「ほんと、に……バカよ」
独り言のつもりで呟いた言葉だった。まさか返事があるとは思わず、エミリはペトラを見上げる。彼女の頬には、涙の筋がいくつもできていた。
「ペトラ……」
「どれだけ、心配したと思ってるの……? エミリが死んじゃったら、わたし……」
ペトラは、掛け布団から放り出されているエミリの手を両手で包み込む。彼女の手の甲には、自身の涙の雫がポタリと落ちていた。
もし、エミリが逆の立場だったら。きっと心配で仕方が無いだろう。大切な人を失うという脅威に、苦しさと恐怖でいっぱいだったはずだ。
そんな思いを親友にさせてしまったことに、申し訳なさがこみ上げる。
「……ごめん……」
ペトラの表情は、彼女の綺麗な髪に隠れているせいで見えない。けれど、見なくてもわかる。ペトラがとんな顔をしているか……
「もう、いいよ……ちゃんと、生きて帰ってきてくれたから」
顔を上げたペトラは、微笑んでいた。心から友の帰還に安心し、優しい笑みを浮かべていた。
「ありがとう」
その言葉に、ペトラは更に頬を緩めて顔を縦に振る。二人はいま生きて共にいることに喜びを感じ、幸せそうに微笑み合った。