Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
リン……
小さな鈴の音が一つ、頭の中に響く。
(……この音、知ってる)
小さい頃から聞いてきた、懐かしい鈴の音。
誰かが呼んでいるのだろうか。
リンリン……リン……
音が増えていく。
まるで、『おいで』と声を掛けられているような感覚だった。
(……行かなきゃ)
ふわふわとした意識が何かに引き寄せられるかのように、少しずつ覚醒していく。その時、白い光が視界を遮った。あまりの眩しさに思わず目を閉じ、光から顔を背けた。
「っ!!」
もう一度目を開けると、次に視界に入ったのは誰かの顔だった。まだ視界はぼんやりとしていて、誰かはわからない。
「エミリ!!」
「エミリっ……!」
しかし、自分を呼び掛ける声で、今視界に映っている者が誰であるかを認識することができた。
「エミリ、わかる? 私たちのこと……!」
「…………ペ、トラ……ニファ、さん……」
まだ完全に覚醒しきっていない頭で、二人の顔から引き出される名前を口にする。
エミリの声は小さく掠れたものだったが、それを確かに聞き取ったペトラと二ファは、大きく安堵の息を吐いた。
「ペトラ、団長たちを呼んでくるから、エミリに着いていてあげて」
「二ファさん、お願いします」
目尻に涙を溜めるペトラに微笑み、二ファは部屋を出て行った。
二人きりの空間は、とても静かだった。カーテンが風に舞ってひらりと揺れる中、時計の音だけがカチコチと響いている。
「…………ペトラ、ここは……?」
「兵舎の医務室よ。エミリ、崖から落ちたことや兵長に迎えに来てもらったこと、覚えてる」
「……がけ……へ、ちょう?」
瞬きを繰り返し、意識を失う前の出来事を思い出そうと試みる。
(…………そっか、兵長が助けに来てくれたんだよね……)
自分を包み込んでいた、あの優しい温もりを思い出す。同時に、リヴァイの安心しきった表情が浮かんだ。