Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
草木が生い茂る森に、木漏れ日が差し込んでいる。小川はキラキラと宝石のように輝き、一匹の小鳥が羽を広げて水浴びをしていた。
自然に溢れた小さな世界。そこに一つの姉弟は、足を踏み入れていた。
6、7歳くらいの男の子が森の中を駆けている。その後を10歳ほどの女の子が追いかけていた。
「エレン! エレン、どうしたの?」
女の子──エミリが呼び掛けるも、エレンと呼ばれた男の子は、それに答えることなく走り続けているだけだった。
この森は、二人の遊び場だった。美味しい自然の空気をいっぱいに吸い込み、駆け回るのは何とも心地が良い。
ここは、二人にとってお気に入りの場所なのである。
そして、いつものようにこの森で一日を過ごすことを決めた二人は、さっきまでずっと木登りやら、水浴びやらをして遊んでいた。
そんな時、何かを見つけたらしいエレンが、急にその何かに向かって走り出したのだ。
エミリは、一瞬呆気にとられたが、すぐに弟のあとを追った。
「エレン、何見つけたの?」
ようやく目的のものを見つけたのか、立ち止まったエレンは、木の根元をじっと見つめている。ようやく追いついたエミリは、エレンの隣に並び呼吸を整えた。
「ハァ、ハァ〜……エレン、いきなり、どうしたの……?」
「……これ」
「何?」
エレンが見ているものに視線を移す。
「あっ……」
そこには小さな鳥の雛が、羽をピクピクと動かし地面に身を任せていた。
「……さっき、落ちていくのが見えた」
雛の前にしゃがみ、眉尻を下げて雛の顔を覗き込む。
エレンが突然駆け出した理由は、この鳥の雛だったようだ。
「そっか」
「これ、何の鳥?」
「うーん……私も初めて見たからわからないなあ……父さんなら知ってるかも」
「じゃあ、連れて帰ってやろう! このままじゃ、こいつ死んじゃう……」
「うん、そうだね」
エミリは鞄に入れておいたタオルを取り出し、そっと両手で雛を持ち上げる。警戒しているのか、バタバタと暴れる雛を落とさないようにタオルに包んだ。
「よし、帰ろっか」
「うん!」
雛を抱えたエミリは、エレンを連れて来た道を引き返す。その道中、雛はずっと鳴き声を森の中へ響かせていた。