Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
ケイジからエミリが無事であったという報告を受けたオルオは、ミケの元で作業を進めている親友の元へ足を運んでいた。
フィデリオは相変わらず、黙々と手を動かし出立の準備をしている。
「おい、フィデリオ」
オルオに呼ばれたフィデリオは、作業をする手を止めて顔を上げた。
「オルオ? どうかしたか?」
「エミリ、無事に兵長が連れて帰って下さったようだぜ」
オルオからの報告に、フィデリオは軽く目を見開いた後、何事も無かったかのようにオルオから背を向けた。
「…………ふーん。あっそ。良かったな」
「何強がってんだよ」
「別に。そういうんじゃねーよ。ただ、やっぱアホみたいにのたうち回って帰ってきたんだな〜と思っただけだ」
片手で後頭部をガシガシと掻いている姿は、いつも喧嘩ばかりしている幼馴染に対して素直になれないフィデリオの意地っ張りな部分が表れていた。
「フィデリオ、こういう時くらい素直に無事を喜んだらどうだ?」
「ナナバさん……!?」
二人の会話を近くで静かに聞いていたナナバが、フィデリオの頭に手を置いてわしゃわしゃと撫でる。
「お前のそういう所は、まだまだ子供だな」
「だから、別に俺は正直に思ったことを言っただけですってば……」
「本当は一番安心しているくせによく言う」
「……そんなことないですよ」
ナナバの言葉が気に入らないのか、フィデリオは不満気な顔でそっぽを向いては否定する。
「ほう? 素直さでは、まだエミリの方が可愛げがあるな」
「あいつに可愛げがあれば、いつもあんな喧嘩してないですよ。俺、ガスの補充してきます」
未だに頭に置いてあるナナバの手をそっと振り払い、フィデリオは不貞腐れた顔のまま行ってしまった。
「ナナバさん、あんまりからかいすぎるとあいつの機嫌も悪くなりますよ」
「あそこまで意地を張られると、ついからかいたくなってな」
そう言って、ナナバはクスクスと笑いを零す。彼女からしてみれば、フィデリオは部下というだけでなく弟に近い存在なのかもしれない。
「さて、我々も準備の続きをしよう」
「はい!」