Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
「すまねぇな。予定より帰るのが遅くなった」
リノに乗ったまま、ハンジたちの所へ近寄ったリヴァイは、未だ放心状態の部下たちを見下ろす。
「ハンジ」
リヴァイの腕の中で目を閉じているエミリを凝視したままのハンジに声をかける。ハッとしたハンジは、エミリからリヴァイの顔へ視線を移した。
「エミリを頼む。森で狼に襲われたらしい」
「え!?」
耳を疑うような内容に、ペトラの瞳がまた不安げに揺れた。
狼に襲われたせいで、エミリは眠ったままなのだろうか。まさか──
「安心しろ。こいつは生きてる」
ペトラの表情から彼女の考えを察したリヴァイが、すぐさま答える。
ペトラは、それが嘘でないことを信じたくて、何度も心の中でリヴァイの言葉を唱える。
(……エミリは、生きてる……)
納得するまでそれを繰り返した後、ペトラはようやく肩の力を抜いた。両目からは、とめどなく涙が溢れている。
「…………よかった。ほんと、に……よか、た……」
嗚咽で言葉が途切れるが、声に出すことでこれまで心にあった不安が、少しずつ取り除かれていくようだった。
顔を両手で覆い涙を流し続けるペトラを、ニファが優しく抱き締める。同じように、二ファも涙を流しエミリの無事を喜んでいた。
「……リヴァイ兵長、彼女の手当は我々が」
「ああ、任せた。モブリット」
ハンジの隣で安堵の表情を見せるモブリットに、エミリを預ける。
「ハンジ分隊長」
リヴァイたちが帰ってきてからまだ一言も声を発していないハンジに、エミリを抱えたモブリットが話し掛ける。
「……リヴァイ」
顔を俯かせたまま、ようやく口を開いたハンジ。そんな彼女の声は、小さく震えていた。
「……ありがとう」
掠れた声で、絞り出すように発せられたハンジの言葉からは、彼女の精一杯の感謝が込められていた。
それをしっかりと感じ取ったリヴァイは、ハンジの肩に手を置いて、エルヴィンが居るであろう簡易テントに向かって歩いて行った。