Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
誰かの幸せを願いたいという思いとその理由が、少しだけわかったような気がした。
大切だから、その人が好きでたまらないから、自分の身を危険にさらしても、周りの声を振り切ってでも、その人のために何かをしたいと思えるのだと。
「……それ、完全に私情ですよね? 大丈夫……なんですか?」
優しく頭を撫で続けてくれるリヴァイに、恐る恐る問いかける。
きっと、エルヴィンは止めたはずだ。リヴァイには、部下たちを率いる兵士長という立場があるからだ。
けれど、それを放棄してエミリを助けに行くことを選んだ。
後で何か罰を与えられるのではないかと不安になる。
「人の心配をする暇があるなら、自分の心配をしろ」
そう言うリヴァイの視線は、エミリの腕や足に注がれていた。
ビリビリに破れた服、服に滲んだ血。野生の動物に襲われたのだと、簡単に見て取れた。
「……ああ、これですか? 狼に襲われて……」
自分の質問を綺麗に誤魔化されたことに少し納得はいかないが、リヴァイの言うことも一理ある。
つい数時間前に起きた恐怖を思い出し、エミリはゾクリと身体に鳥肌が立つのを感じた。
「……本当に、死ぬかと思いました……狼見たのなんて初めてだったし、すごく、怖かったです……」
自分の目の前で鋭い目と牙を見せる狼の姿が忘れられない。与えられた傷がまたズキズキと痛み始め、エミリは顔を歪めた。
「……お前、どうやって逃げ出した」
「…………ふふ、気になりますか?」
こんな状況なのに楽しそうに微笑むエミリに、リヴァイは眉を顰めた。
何か良いことでもあったのだろうか。こんな森の中で死にかけていたのに?
疑問が拭えず脱出法を聞き出そうとしたが、その話はまた後だと頭を切り替え、口を閉じた。
「話はまた帰ってから聞いてやる。まずは本隊と合流するぞ」
「そうですね」
「お前は休んでいろ。疲れただろう」
再び頭を撫でてやれば、エミリは気持ち良さそうに瞼を閉じようとする。
「安心しろ、お前は俺が必ず守ってやる。だから、今は休め」
「……へ、ちょう……」
リヴァイの言葉にクスリと微笑んだエミリは、そのままリヴァイの肩に顔を預け瞼を閉じた。