Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
腕の中で震えているエミリの背中を優しく摩る。
崖から落下した時から、エミリの死は目の前にあった。リヴァイがエミリを探しに森へ来なければ、そんな彼の姿をエミリが見つけることができなければ、こうして生きていたとしても彼女は死んでいた。
「エミリ……よく生きていた」
エミリの後頭部に手を回し、優しく頭を撫でてやる。そうするとエミリは、ゆっくりと顔を上げた。
涙で潤んだ瞳が、リヴァイを捉える。
「……兵長、どうして……ここまで来てくれたんですか?」
本来は居るはずのないリヴァイが、この森にいる。自分を探しにわざわざ来てくれたのは明らかだ。
生存者の捜索を行う時もある。しかし、昨日のような天候を考えれば、被害が多いであろうことは簡単に予想がつく。
ならば、一刻も早く壁に帰還することが望ましいはずだ。
にも関わらず、今、リヴァイがここに居る。その理由は──
「……お前にはまだ、やるべき事が残っているだろう」
「……薬剤師の夢、ですか?」
「それもあるが、それだけじゃねぇ……」
この間プレゼントした、ガザニアの鉢植えを抱えて微笑むエミリの姿を想像する。
指で彼女の顔に付いている泥を優しく払いながら続けた。
「また、誰かを好きになりたいんじゃねぇのか」
「え」
予想とは違う答えに、エミリは大きな目を丸くする。
「ったく、いつも人の幸せばかり願いやがって……」
「兵長……?」
エミリを見つめるリヴァイの瞳は大きく揺れていた。それが、どの感情を意味しているのかは、エミリにはわからなかった。
「……お前を死なせたくないと思った」
いつも他人の幸せを優先するエミリに、もっと幸せを感じてほしいと思った。
夢を追うことだけでなく、誰かと未来を歩む幸せを見つけてやりたいと思った。
エミリのことが、好きだから。