Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
幻聴でも聞こえたのだろうか。そんなことを考えながら、ゆっくりと声のした方へ振り向く。
リヴァイの目に飛び込んできたのは、安心したように微笑むエミリの姿。
所々血が滲んだボロボロの団服を纏ったエミリが、木に手をついて立っていた。
「…………エミリ、か?」
幻聴が聞こえるだけでなく、幻覚も見ているのかもしれない。けれど、幻ならば身なりももっと綺麗なのではないか。そんな可笑しなことを考えながら、ゆっくりとエミリの元へ足を動かす。
「へ、ちょう……!!」
エミリは目の淵に雫を溜めながら、フラフラとした足取りでリヴァイの方へ歩み寄る。
相変わらず体に負った傷が痛みを訴えてくるが、それを無視して必死に足を動かした。
自分の方へ手を伸ばすエミリの姿に、リヴァイの足も自然と早くなる。
幻ではないことを確かめたくて、気づけば駆け足になっていた。
「……わっ!!」
「エミリ!」
ぬかるんだ地面に足元を取られバランスを崩したエミリは、そのまま転びそうになる。
リヴァイは、エミリが地面に倒れてしまう前に彼女の体を受け止め、そして、彼女を抱き留めたままその場にしゃがみ込んだ。
自分の手から伝わる感触に幻覚ではないのだと、エミリは生きているのだと、その事実を噛み締め彼女の背に回す腕にギュッと力を込めた。
「……エミリ」
「リヴァイ兵長……」
耳元でなまえを呼ぶと、リヴァイのマントを強く握り、エミリは彼の胸に顔を埋めた。
涙を流すエミリが感じるのは、リヴァイの心臓の音。それに酷く安心感を覚え、嗚咽を漏らした。
「……バカ野郎。どれだけ心配したと思ってる」
「ごめん、なさい……」
言葉とは正反対の優しい声色に、エミリはクスリと微笑んで抱きしめる腕に力を入れた。
あたたかい。
このリヴァイの優しい温もりが、自分が生きているのだと教えてくれる。
もっと、この温もりを感じていたくて、エミリは更にリヴァイにしがみついた。