Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
どこかですれ違ってはいないか、来た道を引き返しながらもエミリの姿を探す。
しかし、残酷なことに立体機動装置の欠片すらも見当たらなかった。
そうこうしている内に、リノの元へ戻って来てしまった。
リノは静かにリヴァイを見据えている。エミリの姿が見られないことに悲しんでいるのか、小さく鳴いた。
「……すまねぇ。あいつを……見つけることができなかった」
リノに触れようとそっと手を近づける。リヴァイの手がリノに触れる前に、ペロリと舌でその手を舐めた後、そこへ顔を擦り寄せた。
そんなリノの頭を優しく撫でながら、拠点へ帰った後のことを考える。
エミリが見つからなかった事実を知れば、ペトラたちはどんな表情をするだろうか。
信じて任せた自分を責めるかもしれない。それとも、何も悪くないと言葉をかけるのだろうか。
エミリと一緒にいるような奴らだ。恐らく後者だろう。
ハンジは、また自分を責めるのだろうか。それなら、言ってやらなければならない。お前は何も悪くない、と。
もう一度、進んだ道を振り返る。相変わらず人の気配は全く無い。リヴァイは顔を歪め、木に括りつけていた紐を解いていく。
(雨の日とは相性が悪いらしいな……)
これまでにも多くの部下を失ったが、自分が心の底から信頼し、拠り所としていたものを失くした日は、どちらも雨だった。
初めて壁の外に出た時も、今回も……
「……リノ、帰るぞ」
ずっと森の奥を見つめ続けるリノの姿にまた胸を痛ませ、リヴァイはリノに跨ろうと手を掛けたその時、突然リノが大きく顔を上げた。
「どうした?」
何か気配を感じたのだろうか。耳をピクピクと動かし、辺りを見回している。
ガサガサ……
今度は、叢が揺れる音が耳に入った。
野生の猛獣でも現れたのだろうか。なら、リノが反応したのはそれかもしれない。
リヴァイは、念の為にブレードを構えておこうと操作装置を手に取った。
「兵長!!」
その時、はっきりと耳に届いた声にリヴァイは手を止めた。