Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
ハンジから聞いた場所を目指し、リヴァイはリノを走らせる。
昨日の大雨のせいで、リノが足を動かす度にびちゃびちゃと泥が跳ねていた。
「……リノ、大丈夫か?」
流石にリノも走りづらいだろうと思い声をかければ、「ブルル」と大きな声で鳴いた。
これくらい平気だと言っているのだろうか、リノが立ち止まる気配は全くない。
(お前も早くエミリと会いてぇんだな……)
黒いつぶらな瞳を光らせ、リノは前を見据えながら走り続ける。
リヴァイは手綱を更に強く握り、同じように前を向いた。
ある程度の場所まで辿り着いたリヴァイは、リノから降りて森の中を歩き探すことにした。馬に乗ったままでは探しづらいからだ。
「リノ、お前はここで待っていろ」
木にリノを繋いで頭を撫でる。しかし、リノは反応を見せずにじっとリヴァイを見つめているだけだ。
「俺だけじゃ心配だってのか?」
首を傾けるリヴァイに、「ブルル……」と小さく鳴く。そんな心配性なリノを安心させるように、もう一度優しく頭を撫でる。
リノは心地よさそうに目を細めた後、舌を出しペロリとリヴァイの頬を舐めた。
「大丈夫だ。だから、お前はいい子で待っていろ。わかったな?」
そう言い聞かせ、リヴァイは背を向け歩き出した。
まだ太陽が昇っていないため、森の中はとても薄暗く不気味だ。
とっくに目は暗闇に慣れているが、それでもこの中からエミリを見つけ出すのはきわめて困難だろう。
それでもリヴァイは、時間が許す限り諦めるつもりはなかった。
大雨を浴びた叢を掻き分け、手が濡れようが泥が付着しようが、それらを一切お構い無しに捜索を続けた。
それでも見つからない。
何度目かわからない溜息を吐き出し、肩を落とした。顔を上げれば、木々の間から差し込む薄く微かな光がリヴァイの顔を照らす。
太陽が既に顔を出し始めていた。
(…………ここまで、なのか……)
そろそろ巨人が活動を始める。引き返し本隊と合流しなければならない。
タイムリミットだ。
このまま捜索を続けたい気持ちが強く残る中、リヴァイは握り込んでいた拳ゆっくりと解き、リノの元へ戻った。