Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
そこにまた別の声が加わった。これはオルオのものだ。
腰に手を当て、「しょうがねぇなぁ」と溜息を吐く彼の隣には、頭に手を回しこちらに背を向けて立つフィデリオの姿もあった。
「すみませんしたっ! こいつは俺がちゃんと見てるんで!!」
「ちょっと、オルオ!!」
ペトラの肩に両手を置き、リヴァイから引き離すオルオにペトラが不満の声を上げる。
「あのなぁ、兵長はお前が居ると足でまといだって言ってるんだよ!」
「そ、そんなのわかってる! わかってる、けど……」
顔を俯かせるペトラに、オルオは自分の方へ向き合わせて言った。
「お前、一回落ち着けよ。さっきから泣いてばっかで一睡もしてねぇし、そんなんじゃ壁に戻る前に死ぬぞ!」
「でもっ」
「……気持ちはわかるけどよ、今のお前には何も出来ねぇよ」
オルオの厳しい言葉にペトラは拳を作る。
溢れ出す涙を堪えながら、唇を噛み締め悲しみに耐えていた。
「兵長に任せようぜ……」
その一言でペトラはようやくコクリと頷いた。
リヴァイならきっとエミリを連れて帰ってきてくれると、そう信じて。
ようやく諦めを見せたペトラの様子に安堵し、リヴァイはハンジの後ろに立つリノに跨る。
最初は人間を嫌い、全く人に懐くことのなかったリノが、今はすっかりハンジやリヴァイに触れられても嫌がる素振りを見せない。
これも、エミリが持つ”心を動かすチカラ”のお陰だ。
「行ってくる」
「……ああ、気をつけて」
リヴァイはハンジを一瞥した後、リノを走らせ森の中へ消えて行った。
静かになる空間。
ペトラは未だに顔を俯かせて立っている。
「大丈夫。きっと帰って来るよ……」
そんな彼女に歩み寄り、ハンジは優しくペトラを抱き締めた。耳に入る小さな嗚咽に、ポンポンと頭を撫でる。
「そうそう、大丈夫だって」
そこへ、ずっと背を向け黙っていたフィデリオがようやく口を開く。
「あのエミリだぜ? どうせ、大怪我したって無茶して帰ってくる。それがあいつだろ。気長に待とうぜ」
そう言ってヒラリと手を振りテントへ入っていく。そんなフィデリオの背中に、ペトラは小さく吐き出した。
「……フィデリオだって心配してるクセに。バカ」