Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
雨もすっかり止み、少しずつだが空が明るくなってきた。
湿気が肌にまとわりつくのを感じながら、リヴァイは愛馬の元へ歩み寄る。
優しく頭を撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細めた。
これからエミリを迎えに行く。
世が明けてしまえば、また調査が始まる。それまでにエミリを見つけ出さなければならない。
死んでいるかもしれないが、放っておくよりかは断然良い。
(……俺もどうかしている)
兵士たちの命は皆平等。一人の部下を特別扱いするなど、兵士長の自分がしても良いことではないだろう。
だけど、知ってしまったこの気持ちから目を背けることはできない。
「……リヴァイ」
背後からハンジに声をかけられ、リヴァイはそちらへ振り向く。そこには、彼女だけでなくエミリの愛馬であるリノが、じっとリヴァイを見据えハンジの後ろに立っていた。
「この子を連れて行ってほしいんだ。さっきからずっとソワソワしていてね……きっと、この子もエミリのことが心配なんだと思う」
リノの黒い瞳を見つめながら、ハンジは軽く自嘲気味に笑った。
そんな彼女の目の下には、はっきりと隈が浮かんでいる。顔色も悪いことから睡眠を取れていないことが伺えた。
「……わかった、リノは俺が預かる。だから、お前は休め」
そんな状態で調査を続ければ、今度はハンジが命を落としてしまう。それだけは御免だ。
「……うん。本当は、私も一緒に行きたかったんだけど……」
「連れて行けるわけねぇだろう。それに、これはただの俺の自己満足だ。他人を巻き込むつもりはねぇ」
「リヴァイ……」
どこか冷めたリヴァイの表情に、ハンジは固く目を瞑る。
頭に浮かぶのは、最後に見たエミリの柔らかいあの笑顔。
『進んでください』と、最後までハンジのことを思ってくれた彼女の姿に、助けられなかった罪悪感が再び込み上げてくる。
エミリを失った後、彼女が落ちて行った場所をただじっと眺めていたリノの姿にも酷く心が痛んだ。