Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
(……お願い、もう諦めてどこかへ行って!!)
これ以上、狼を傷つけていたら逆に自分の精神が壊れてしまいそうだ。
(……でも、今更何言ってるんだろう……いつも普通に巨人を殺しているくせに……)
巨人と動物、同じ生き物であるはずなのに、何故こんなにも抱く感情は違うのか。少し冷静になった頭でそんなことをふと考える。
だが、それが隙となった。
少し力が緩んだエミリの腕を振り払い、狼は鋭い牙を見せながらエミリを押し倒す。
リン……
その拍子に、エミリの胸元にぶら下げてあった鈴の音が小さく鳴った。
「ッッ!!?」
地面に押し倒されたことによって、後頭部に鋭い痛みが走る。体の重みにすぐさま目を開けると、目の前には怒りを表す狼の姿。
死ぬ
その言葉がエミリの頭に瞬時に浮かんだ。
振り上げられる狼の前足。
顔を引っかかれる。
死の恐怖に思い切り顔を背け目を瞑った。その時、狼の悲鳴が森の中に響いた。
「…………!?」
同時に体から無くなった重みに、今度は何があったのだろうと急いで目を開ける。
状態を起こしたエミリの目に映ったものは、中に浮かぶ謎の物体に襲われる狼の姿。
「…………えっ……なに?」
訳が分からなくて、エミリは固まったまま微動だにしない。
そのまま狼は、鳴き声を上げながら叢の奥へと消え去った。
途端、静かになる森。
「…………わ、たし……たすかった、の……?」
未だにバクバクと鳴り響く心臓を抑えながら、呼吸を整える。
突然自分に降り掛かった死の恐怖。それから解放されたエミリは、一筋涙を流した。
「…………あっ……よ、かった……」
口元を両手で抑え、肩でゆっくり呼吸を繰り返す。とりあえず助かった。それも、狼に襲いかかっていた謎の物体のおかげだ。
「……え、ちょっと待って。なら、さっきのは何……?」
そこで浮かぶ疑問。正体を確かめようと顔を上げた時、バサリと何かが木の枝に止まった。
音の方へ顔を向けると、そこには真ん丸な目を光らせた生物が、エミリを見下ろし静かに佇んでいた。