Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
「……ぐ、うっ……」
進む度に肩の痛みが全身を襲う。涙が出るほどの頭痛、体中に打ち付けられた痛みが少しずつ増し、正直体に力を入れるのも嫌で仕方がなかった。
だけど、じっとしたまま命を失ってしまうよりかはマシだ。涙で視界が滲む中、その気力を糧に腕を動かす。
その時、ガサッ……と葉が揺れる音がエミリの耳に届いた。ビクリと体を揺らし、一旦動きを止める。
ガサガサ……ガサリ……
冷や汗が頬を伝い、ポツリと地面の上に落ちる。嫌な予感がエミリの心を襲った。
ゆっくりと顔を後ろに向けて見れば、叢の中から見える二つの小さな丸い光。それは、じっとエミリを捉えている。
ドクンドクンと心拍数が上がり、少しだけ呼吸が早くなる。これは、危険と恐怖を感じて生じるもののそれだ。
深夜に巨人の活動は確認されていない。だが、まだまだ謎だらけだ。巨人の可能性もあるかもしれない。けれど、叢の中に隠れているものは巨人ではない。
姿をはっきりと見たわけではないが、恐らくこの勘は当たっている。
再びガサガサと音を立てて、ゆっくりと叢から姿を現すそれに、エミリは一瞬だけ呼吸を止めた。
(…………狼だ……!)
予想は的中。獲物としてエミリを狙っていたのは、この森で活動している野生の狼だった。
暗い真夜中の森で、狼の顔や毛並みの色ははっきりと分からない。そのせいか、ギラリと捕食対象を睨みつける狼の目が、とても不気味で仕方が無かった。
(…………まずい……!)
逃げなければ。
そう思うのに、恐怖で身体が動かない。
狼を実際に見たのはこれが初めてだ。けれど、それだけではない。
普段、巨人という巨体と戦っているのだから、それに比べれば野生の動物など平気だ。それなのに恐怖を感じている理由は、怪我で思うように体を動かせないから。
重なる不幸。痛みという鎖がエミリの体を地面に縛り付け、絶望から這い上がることを許さない。
もうこのまま、狼に襲われ死んでしまうのかもしれない。それでも……