Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
静かな暗い森の中、力無く地面に伏している兵士の指がピクリと動いた。その数秒後、小さく声を漏らしゆっくりと目を開ける。
視界に入るのは自分の手。すぐ隣には操作装置が転がっており、刃は半分ほど折れていた。
動かない体と視界に映る情報から、自身の置かれている状況が最悪であることに気づく。
続いてぼんやりと思い出すのは、自分が気を失う前の出来事。
(……そうか。私、後輩を庇って崖から落ちたんだ……)
近くに人がいる気配も無い。聞こえるのは、不気味な夜の森の音だけ。兵団とはぐれてしまった。それを理解したエミリに大きな絶望感が襲う。助かる確率はゼロに等しい。
(何とか、助かる手立ては……)
とりあえず行動だ。そう思って腕に力を込めた時、鋭い痛みが左肩に走った。すぐに体の力を抜いて、地面に見を委ねる。ズキズキと痛む肩に顔を歪めた。
どうやら、崖から落ちたことによって怪我を負ってしまったらしい。あの高さから落ちたのだ。寧ろ、死んでいたっておかしくはなかった。
(……どう、しよう……)
このままでは身動きが取れない。しかし、動けたところでどうやって合流する?
夜の森は、野生の猛獣が彷徨っているため下手に動けば殺される。かと言って、朝まで待っていれば巨人が活動を始めるし、調査も続行するだろう。
万事休す。絶望的な状況に、エミリはもう諦めることしかできなかった。
(……ここまで、なのね……)
死を悟った。このまま自分は、ただ一人この薄暗い森で息を引き取るのだろう。
痛みに耐えきれず死ぬのか、出血が止まらず死ぬのか、それとも、何も口にすることなく餓死するのか……そんな、どうでもいいことを考える。
(……みんな、ごめん……あとは、おねがい)
生き残った兵士たちに意志を継いでもらう。
エルヴィンやリヴァイ、ハンジ班の皆やペトラたちの顔を順に思い浮かべ、目を閉じようとした。その時、
「……っ!!」
手首に通しているブレスレットが目に入った。そう、壁外調査の前、エレンから届いた手紙と一緒に送られてきたお守りだ。