Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
テントから出たリヴァイは、空を見上げた。墨色の雲が果てしなく続いている。
まるでリヴァイの淀んだ心と同じようだ。
ファーランとイザベルを失ったあの時も同じだった。
暗闇と霧が深い大雨の中、二人は巨人によって呆気なく命を落とした。
それからはずっと、雨を見る度に胸糞が悪くて仕方がなかった。それが壁外調査と重なれば、いつも以上に気が立って仕方が無い。
(……これだから雨は嫌いなんだ)
まだ死亡したと決まったわけではない。それなのに、とても大きな胸騒ぎがする。
吐き気がするほどの胸の痛みを感じ、リヴァイは胸元のシャツを片手で鷲掴む。この感覚も随分と久しぶりだ。
(……エミリ)
心の中でそっと、愛しい人の名前を呼ぶ。
『……薬剤師になって、皆を助けたい…力になりたい、です』
お前には、薬剤師になるという夢があるんじゃねぇのか?
夢を叶えずに、そのまま死んじまうってのか。
『……わたし、また誰かを好きに……なれる、でしょうか』
お前が失恋したあの時、「諦めるな」と言ったろうが……誰かを好きにならず逝っちまうのか……。
『……私達は、いつ死ぬか分からない。でも、だからこそ、最期は笑えるように幸せを分かち合いたい、幸せにしたい、そう思うんです』
お前が初陣として壁外調査を終えた後、お前は俺にそう言った。自由のためだけでなく、人々の幸せのために戦うと。
エミリが見せる太陽のように温かい笑顔。彼女の表情と過ごした時間を思い返し、強く拳を握る。
「……エミリよ、お前にはまだ、やるべき事が残ってんだろうが。だから……」
だから、迎えに行くまで生きていろ。
そう強く心で念じ、再び空を見上げた。
強く降り続いていた雨は弱まり始め、空を覆う雲は少しずつ白さを取り戻しつつあった。