Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
「……その兵士は誰だ?」
顔を下に向け続けるハンジに、エルヴィンが再び問ただす。そこで彼女は、ようやく顔を上げてリヴァイを見た後、恐る恐る口を開いた。
「…………行方不明者は、エミリ・イェーガーだ」
四人を覆う空気が凍りついた。
ハンジが顔を上げなかった理由が、彼女の名を出されたことで全て解った。ミケが曖昧な答え方をしたのも、それを察していたからだろう。
何となく、そうなのだろうと予想していたエルヴィンも小さく息を吐いた。
「……おい」
誰も何も話そうとしない重たい空気が漂う中、ひどく冷たい声が静寂を破った。
「どういうことだ? 何故、そうなった……」
「……リヴァイ」
じっとハンジを見据えるリヴァイに、ハンジは何と答えて良いのか迷いを見せる。
「……巨人に食われそうになった兵士を、エミリが助けた」
「それで?」
「その兵士は助かったけど、代わりにエミリが巨人に弾き飛ばされ……崖から落下した」
「っ!?」
信じられない出来事に、リヴァイは大きく目を見開いた。
いつか、こうなる時は来るとわかっていた。けれど、らしくもなくエミリなら生き残り続けると、そう思い込んでいた自分も存在していた。
「……高さはどれくらいだ?」
事実を受け入れることで精一杯なのか、黙り込むリヴァイに代わってエルヴィンが口を開く。
「……わからない。この雨と霧のせいで底は見えなかった。けど、おそらく30〜40mほどあったと思う。……死亡する確率の方が高い」
苦しげに顔を歪め、ハンジは再び顔を俯かせた。エルヴィンとミケも神妙な面持ちで、ただその場に立っていた。
そんな三人の隣を横切るのはリヴァイだ。彼が何をしようとしているのか、それを察したエルヴィンはすぐさま口を開く。
「リヴァイ、行くな」
その言葉に、リヴァイはピタリと足を止めた。