Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
『巨人に薬か……そう言えば、そんな研究見たいことないなあ。でも、どうしていきなりそんなことを?』
『だって、せっかく調査兵として薬剤師目指してるんですよ? だったら、人を救うだけじゃなくて、巨人を倒すための薬を開発できたらなあって』
エミリは目をキラキラと輝かせながら、ハンジに意見を述べた。そんな部下の提案に、ハンジもニンマリと微笑む。
『おおおお!! それいい! ぜひ採用しようじゃないか!!』
エミリの両肩に手を置き、あはははと笑い声を上げる。そんなハンジは、奇行種モードに入りかけている。
『じゃあ、まずは試験を合格しなきゃいけませんね!!』
『そうだね! エミリが合格したら、二人で対巨人用の薬を開発しよう!!』
『はい!!』
エミリとできた新たな楽しみと目標。
巨人の捕獲に賛成の者は数少ない。エミリはその中の貴重な一人だ。そして、ハンジにとって大切な部下。感覚でいえば、少し娘に近いかもしれない。
エミリが元気に笑っていれば、それだけ幸せだと思える。
逆に泣いていれば、寄り添い背中を押してあげたくなる。
もし、自分の身を犠牲にするような無茶をしようとすれば、ひっぱたいてでも止めるだろう。
エミリが自分の下についた時から、彼女は大切な部下だ。部下を大切に思うのは、当然のこと。
けれど、これまで思っていた以上に、ハンジにとってもエミリの存在はとてつもなく大きなものだったということが、ここにきてようやくわかった。
「……エミリ!」
失いたくない。
大切な存在に再び手を伸ばす。けれど、届かない。
エミリとハンジとの距離が、どんどん開いていく。
「エミリ!!」
もう一度、力強く叫んだ。すると、エミリはニコリとハンジに向けて笑顔を見せた。
「っ!?」
それで、先の未来がわかってしまった。
自分は、彼女を助けることはできないのだと……
「……ハンジさん……進んでください」
私には構わず先へ進んで。
ハンジを安心させるため、エミリはめいいっぱい微笑んで見せる。
そして、その言葉を最後に、エミリは底なしの暗闇へと沈んでいった。