Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
「エミリ!!?」
エミリが巨人の腕に弾き飛ばされた。それを目にしたモブリットやそばにいた二ファたちが、彼女の名を叫ぶ。
「まずい、このままじゃ……!!」
エミリが中に浮くそのすぐ下は、崖だった。
この雨と霧のせいで、崖下がどれだけ深いかわからない。このまま落下するということは、死を意味する。
「エミリ!!」
そんな中、ハンジが立体機動を全速力に彼女の元へ駆けつける。
「ハンジ分隊長!!」
モブリットも二ファも、立体機動に移れる状態ではない。もうあの人に掛けるしかない。
モブリットは、自分の腕の中でぐったりと意識を失う部下を抱えたまま、間に合うことを祈った。二ファは馬の手綱を強く握っている。
「エミリ!!」
ハンジが手を伸ばす。
「……ハンジ、さん」
巨人に弾き飛ばされたことで痛みに顔を歪めたエミリも、彼女に必死に手を伸ばした。それによって、お互いの手が近くなる。
何としてでも助けると心の中で叫びながら、ハンジはエミリの手を掴もうと指を折り曲げた。しかし、
「っ!?」
届かなかった。
「エミリ!!?」
そのままエミリは重力に従って下へ落ちていく。
ハンジはもう一度、彼女の名を叫んだ。
(ダメだ、エミリ。君だけは……)
ハンジの脳裏に浮かぶのは、人類の絶対的な希望である最強の兵士。
(君がいなくなってしまっては、彼が……)
最強の兵士は、また絶望と孤独の渦に飲み込まれてしまう。
それだけじゃない……
『ハンジさん、一つ気になったことがあるんです。巨人に薬って効くんですか?』
ある日。いつものように巨人の研究に熱中していたハンジに、エミリが突然質問を繰り出した。
『え、いきなりどうしたの?』
『薬学の勉強をしていて、ふと疑問に思ったんです』
エミリは、いつも愛用している薬学の参考書をハンジに見せながら言った。