Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第4章 相棒
「ハンジ分隊長」
「ん?」
「私、この子にします!」
優しい眼差しで馬を見つめるエミリ。馬もまた、エミリをじっと見つめ返していた。
初めて見せた馬の行動に、ハンジは呆気に取られた。そして思った。
(この子は……チカラを持っている)
身体的な強さでは無い。人を、生き物を動かす"何か"を持っている。
ハンジはそう確信した。
「分かった。じゃあ、その子をエミリに預けよう」
「はい!」
「名前はどうする?」
「名前、ですか」
そう言えば考えてなかったと、もう一度馬を見つめる。
確かに"馬"は、生き物の種類を分ける記号のようなもの。自分達人間のように、ちゃんと名前をつけてあげなくては。
「リノって、どうですか?」
「かわいいじゃない! 私はいいと思うよ!!」
「……あなたはどうかな?」
もう一度頭に触れると、『ブルル……』と心地よさそうに目を細める。その様子に、リノという名前を気に入ってくれたのだと感じたエミリは、嬉しそうに微笑んだ。
「エミリ、少しリノと走ってみる?」
「はい!」
馬との信頼も壁外では必要なものだ。
ハンジは扉を開け、リノに紐をつけ終えると手綱をエミリに預けた。
エミリはリノに、ゆっくりと外に出るよう促す。ずっとここにいたということは、あまり外に出て走り回ったことも無いだろう。
今日は思い切り、リノと遊ぼう。エミリはそう決めた。
小屋の外に出て乗馬場へ移動する。
エミリはリノに跨り、まずはゆっくり歩くよう声を掛けた。
二周ほど乗馬場を回り、今度は軽く走る。そして、最後は思い切り、スピードを上げて。
「あはは! 楽しい〜!!」
エミリが声を上げると、リノも『ヒヒーン!』とそれに応えるように鳴いた。
会って数分程しか経っていないのに、エミリとリノはもう心を通わせている。
ハンジは珍しいものを見るように、けれど温かい眼差しで乗馬場を走り回る一人と一頭を眺めていた。