Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第4章 相棒
馬小屋では、馬達が食事中だった。あまり邪魔をしないように静かに小屋の中を歩き回る。
「さあ、この中からエミリが一番いいと思う子を選んであげて」
「うーん……」
正直、どう選べば良いかわからなかった。訓練兵時代も馬に乗っていたことはあったが、今回は自分の相棒となる馬だ。慎重に選ばなくてはならない。
やはり、自分に興味を示した子が良いのだろうか。難しい選択だった。
「ん〜…………あれ」
ふと目に映ったのは、一番奥でこちらをじっと見つめる栗色の馬だった。そして、その馬の足元には子馬が休んでいる。気になったエミリは、奥の方へとゆっくり歩いて行った。
「その子が気に入ったの?」
「あ、いえ……どうしてここだけ二頭……しかも、子馬が」
「ああ、その子達はね、"きょうだい"なんだ」
「……え」
「この子がお姉さんで、子馬の方が弟なんだ。この子達のお母さんは随分前の壁外調査の時、巨人の下敷きになってね……それから、この子は弟とずっと一緒にいる。だから、誰かが引き取ろうとしてもなかなか言うことを聞かなくてね」
エミリは驚いた。この馬の姉弟はまるで、エミリとエレンのことを指しているようだったから。
「同じ、だね……」
エミリが兵士を目指すため家を出た時、まだ小さなエレンを守りたいが為に意地でも兵士を目指すことを諦めなかった。そして、巨人に食われた母・カルラを思い出す。
エミリはそっと馬に手を伸ばした。
「私にも弟がいるの。母さんは、もういない。巨人に喰われた。私もね、弟の傍にいたいと思うけど、いつか調査兵団に入ってくる弟達を守りたくて、ここにいるんだ」
語りかけながら、馬の頭に触れた。
それを見たハンジは目を丸くした。今までこの馬が懐いた兵士は、誰一人としていなかったから。
「あなたも心配なんだよね。その子のこと。でも、この子も壁外で戦うために、もうすぐ訓練を始めるんでしょ? 私の弟もね、その為の訓練をしている所なの」
今頃、立体機動装置で飛び回っている頃だろうか。愛しい弟達の姿を思い浮かべながら続けた。
「私達、似てるね。きっと、分かり合える気がする」
エミリがそう言うと、馬は彼女の手に擦り寄り、静かに鳴いた。まるで、『そうね』と言っているように見えた。