Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
「ああ〜もう無理。疲れた……」
私物たちがなかなか綺麗にクローゼットにまとまってくれず、意気消沈したエミリは勢いよく机に突っ伏する。
外はもう夕焼けこやけでまた明日、状態だ。エミリはふらふらと体を起こし、クローゼットの前に出された私物たちを見下ろす。
「どうしよう……」
私物といっても残っているものは殆どぬいぐるみ。訓練兵団の時から集めていたぬいぐるみばかりだ。勿論、捨てるなんて選択肢は可哀想でできるわけがない。
昔、可愛がっていたぬいぐるみを捨ててしまいものすごく後悔したことがある。以来、ぬいぐるみを捨てられなくなった。
それならまだいいが、可愛いものはつい欲しくなってどんどん増えていってしまうのだ。それで何度カルラに怒られていただろう。
一つ一つ手に取って抱きしめると、幼子に戻ったような不思議な感覚がエミリの心を包み込む。
「このぬいぐるみ……どうしようかな」
皆で使っているこの部屋では、飾ることもできない。だかといってクローゼットに終いっぱなしもどうかと思う。
「……あれ、これって」
今持っていた小さなうさぎのぬいぐるみを置いて、目に入ったそれを手に取る。
丸い目、丸い体、全体的に丸いモフモフなそのぬいぐるみは、エミリが一番お気に入りだったフクロウだ。
「……懐かしい」
フクロウの頭を優しく撫でる。ふわふわとした手触りが心地良い。
チャリン……
「……え」
ぬいぐるみを動かすと中から鈴のような音が聞こえ手を止めた。背中を見れば、茶色の三つのボタンが並んでいる。
「そう言えば……これって小物入れにもなるんだったっけ?」
中に何を入れていたのか、それを確かめるためにエミリは一つずつボタンを外していく。ふわふわの切れ目を横に広げ、中から音の正体を取り出した。
リン……チャリン……
「……これは……」
音が示した通り、出てきたのはフクロウの形をした鈴だった。そしてもう一つ、銀色の笛も鈴と共にぶら下がっていた。
「……こんな所にあったんだ……」
懐かしい思い出の品。前に見たのは、訓練兵団に入る少し前だった気がする。