Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
「……そう言えば、兵長ってよく私の頭撫でてくれますけど、これってクセなんですか?」
思い出したように問いかけるエミリの言葉に、リヴァイはピタリと手を止めた。
「よく他の人にもやってるんですか? …………兵長?」
反応が無いリヴァイを気にして、エミリが顔を覗き込む。彼は、地面に視線を落としたまま微動だにしない。
何かマズいことでも聞いてしまったのだろうか。不安になったエミリは、謝ろうと慌てて口を開こうする。
「……お前だけだ」
「へ?」
「…………いや、違うな。一人だけいた」
「兵長……?」
リヴァイの様子が少しおかしい。そんな気がしたエミリは、眉を下げてリヴァイの顔を見つめる。
お互いの存在は目の前にあるのに、リヴァイは違う何かを見ているように感じた。
いや、エミリを通して誰かと重ねているように思える。
「……それは、恋人ですか?」
踏み込んでいいのか分からなかった。けれど、今のリヴァイの表情はどこか寂しげで、放っておけなかった。
それに、いつも話を聞いて貰ってばかりだから、何かお返しがしたい。そう思って、エミリは恐る恐る尋ねた。
「いや、そんなんじゃねぇ……」
一度瞼を閉じ、そしてゆっくりと目を開けてエミリへ視線を戻す。
見た目も性格も全然違う。でも似ている部分もあって、それを感じ取っていたから自然と手が彼女の頭に触れていた。
考えないようにしていたが、それでもエミリに問われた事によって鮮明に脳裏に浮かんでしまった妹分の顔。
『リヴァイ兄貴!!』
地下街で助けた事が切っ掛けでリヴァイを兄貴と呼び慕う様になったその人物は、年頃の割には決して女の子らしいとは言えず、言葉遣いも性格も男勝りだがいつも活発で明るい少女だった。
そんな元気で強気な所が少しだけエミリと似ている気がした。
(エミリとなら、お前も上手くやっていけてたのかもしれねぇなあ……イザベル)