Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
瞳を揺らしながら猫の親子を見つめるエミリの横顔が、とても儚く見える。
今にもどこかへ消えてしまいそうな、そんな弱々しい雰囲気が彼女を包み込んでいた。
母親のことを思い出しているのだということは、その様子からすぐに察した。
そんな彼女を見ていると、釣られてリヴァイの脳裏にも自然と自分の母親が浮かんでくる。
母が亡くなったのはもうずっと昔だ。リヴァイが幼い時に、暗い地下街で静かに息を引き取った。
顔もあまりハッキリと覚えていないが、不思議と母がリヴァイに向けて残した言葉だけは覚えていた。
『……リヴァイ、いつかあなたに愛する人ができたら、その人を大切にしてあげるんだよ』
どんな経緯でそんな言葉を囁かれたのか、そこまでは覚えていない。それに、当時まだ幼かったリヴァイにはあまり理解できないものだったにも関わらず、長い年月が経った今でも十分に思い出せるのは、無意識に頭のどこかでそれが覚えておくべき事柄だと理解したいたからなのかもしれない。
リヴァイはエミリの隣に片膝をつきしゃがみ込む。そして、そっと片手を彼女の頭に乗せた。
「……兵長?」
ぼーっと猫を眺めていたエミリが、リヴァイへ視線を移す。彼女と視線を合わせ、リヴァイは口を開いた。
「……シケたツラすんじゃねぇ」
「え」
「俺は……お前のそんな顔より、笑ってる顔の方が見てぇ。だから、笑え」
リヴァイの言葉に、エミリは大きく目を見開いた。
”笑え”
いつも自分で自分に言い聞かせてばかりだったから、誰かからそう言われるのはとても久しぶりだ。
「……はい!」
リヴァイにそう言って貰えたことが嬉しくて、エミリはふわりと微笑んだ。
見たかった想い人の笑顔。リヴァイは目を細めエミリの頭をポンポンと撫で続ける。