Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第15章 賢者
数分掛かってやっと服の中から子猫を取り出すことに成功したエミリは、にゃんにゃんと鳴き続ける猫を抱えたままぐったりと疲れた表情をしていた。
「……はあ、なんか一気に疲れました」
リヴァイに地面に下ろされたエミリは、芝生の上に座り込み長い溜息を吐く。
子猫は抱えられたままエミリの手をぺたぺたとぷにぷにの肉球で触れ、尻尾を左右に大きく振っていた。
「……疲れたのはこっちだ」
「え、何か言いました?」
「言ってねぇ」
ボソリと小さく呟やいたリヴァイの声がハッキリと聞き取れず、エミリは首を傾けて目の前に立つリヴァイを見上げている。
気分転換をしにやって来た筈が、結局疲労が蓄積されただけで何の解決にもならなかった。そんなリヴァイの眉間にはまた皺が増えている。
「……で、そいつどうすんだ?」
「あ、この子のことですか……」
エミリの胸元に顔を埋める子猫を見下ろす。まだ子猫なら母猫が近くにいてもおかしくない。
キョロキョロと辺りを見回していると、にゃーおという子猫よりも低めの鳴き声が聞こえた。
「……あ」
声の方へ振り向けば、そこには子猫と同じ種類の猫が離れた場所でじっとこちらを見ていた。
もしかして、あの猫が母親なのだろうか。猫と見つめ合っていると、もぞもぞと子猫がエミリの腕から抜け出そうともがいている。
エミリはそっと子猫を地面に下ろした。
みゃあ……!
子猫はそのまま小さな足でトコトコと猫の方へ駆け寄って行く。そして、鼻と鼻を合わせてまた小さく鳴いた。
「……やっぱり、あの猫が母親だったんだ」
母猫が子猫の頭や口周りをぺろぺろと舐めている。気持ち良さそうに目を閉じる子猫を見ていると、とても穏やかな気持ちになれた。
(……母さん……)
なんだか無性に寂しくなり、ギュッと胸元に手を当てシャツを掴む。
猫の親子にカルラと自分の姿が重なり、とても苦しくなった。またカルラに頭を撫でてもらいたい、抱きしめてほしい、そう思うもそれは二度と叶わないとわかっている。だから、余計に虚しくなった。