Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「やっと来た。お前ら遅せぇぞ〜」
「こっちは腹ぺこだってのにな」
ようやく空いた道を通って二人の元へ辿り着けたと思ったら、早速不満を飛ばされる。
「しょうがないでしょ! 込み合っててなかなか通れなかったんだから!!」
ペトラが腰に手を当てて言い返すも、二人はいいからさっさと座れと声を上げる。お腹が空きすぎてイライラしているのだろうか、エミリとペトラは顔を見合わせ溜息を吐く。
「あれ、その花どうしたんだ?」
席に着く際、エミリが持っていたガザニアを机に置いたことで、ようやくその存在に気づいたフィデリオがペトラと同じ質問を投げかける。
「兵長に貰った」
「はあ?」
「オルオうるさい。そうそう、エミリ。説明してもらえる?」
事実を述べると嘘だ、と言いたげな顔でオルオが声を上げも、いつものようにそれを軽く流したペトラが説明を求める。
エミリは少し神妙な面持ちで切り出した。
「実は、昨日の夜ことなんだけど……兵長にね、私の訓練兵時代のことを話したの。それで、まあ内容が内容だけに、結構重い話になっちゃってさ。私……その、泣いちゃったんだよね。それで色々と気を使わせちゃったみたいで、そしたらお花くれた!」
「説明がざっくりすぎんだろ……」
つらつらと早口で述べるエミリの説明に、オルオが容赦なくツッコミを入れた。大体は理解できたが肝心な所が抜けている。
あまりその事について話したくないのであろうことが伺えた。
笑ってはぐらかすエミリに、隣からペトラが口を挟む。
「ねえ、その重い話って……エミリが友達の足を怪我させちゃったっていう話?」
「…………え」
ペトラの問いかけにエミリは表情を強ばらせた。何故、彼女がそれを知っているのか。誰かから聞いたのだろう。その犯人は、確実にエミリの目の前で静かにパンを咀嚼している幼馴染だ。