Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「……昨日、フィデリオに教えてもらったのよ。最近、エミリに元気がない理由も含めて」
「そう、だったんだね……」
エミリは顔を俯かせる。
フィデリオを咎めることはなかった。彼は、二人に話すべきだと判断したから、わざわざエミリが居ない時に昔話をしたのだろう。
それに、どうせ自分からはできなかっただろうから返って助かった。
「エミリ」
ペトラたちの顔が見れずにいると、ペトラの声と共に机に置いてある手に何かが触れる。顔を上げて見れば、そこにはペトラの手が重ねられていた。
「……ペトラ?」
「私たちは、いつでもエミリの味方だから」
人類に心臓を捧げる仲間として、共に夢を目指し歩み続ける親友として、これから先もずっとエミリと未来へ進んでいきたいという気持ちを込めて、精一杯の思いを重ねているその手に込めて、言葉を紡ぐ。
「何かあったら貴女を頼るし、私たちを頼ってほしい。エミリは私たちの大切な親友よ。エミリはひとりじゃない、いつでも隣に居るから」
瞬間、はらりとエミリの目から一粒の涙が零れ落ちた。
「……あり、がとう……」
そのままペトラの肩に額をくっつけてもたれ掛かる。
涙が出るほど嬉しかった。そして、ペトラやオルオと出会えて良かったと心から思える。
「ったく、泣くくらいならなあ、最初から相談なり何なりしろ……」
涙を流すエミリに戸惑いつつも、オルオはほれと水を差し出す。そんなぶっきらぼうな優しさに感謝し、コップを受け取った。
「ありがとね、オルオ」
「けっ……」
そんなエミリの笑顔には、もう迷いは無くなっていた。幼馴染の表情に安心したフィデリオは、パンパンと手を叩く。
「ほら、飯食おうぜ。あとさ、たまには夕飯外で食べねぇ?」
「それいいわね!」
「お前らがどうしてもって言うなら付き合ってやるよ」
この傷は、きっとずっと残り続ける。忘れたいと何度も思ったが、今はそうは思わない。
辛い過去を乗り越えたからこそわかる、支えてくれる友達がいてくれることの有難み。あの出来事は、信じることの大切さを教えてくれたのだから。
一人の幼馴染に、二人の親友に出会えたことに心から感謝し、エミリは今ある幸せを噛み締めた。