Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
リヴァイと別れたエミリは、ガザニアを持ったまま食堂に向かっていた。
鉢植えが小さいため、大きなじょうろでは水やりをする時やりづらい。
そこで思い出したのが、食堂に置いてあった小さなじょうろ。
調査兵団の料理人が以前使っていた物らしいが、最近は花を育てる時間もなくずっと置きっ放しになっているという話を聞いた。
もし良ければ貸してもらおうと思い立ったのだ。
食堂に入ると既に満席だった。
エミリが兵舎に戻ってきた時、丁度午前の訓練が終わったところだった。その後はすぐに昼食なため、この時間は混雑している。
「……じょうろは、お昼が終わった後にしようかな」
流石にこの忙しい中、仕事を邪魔する訳にはいかない。エミリは諦めて、自分もご飯を食べようとトレーを持って列に並ぼうとした。
「エミリ、いた!!」
馴染みのある声に呼ばれて振り向けば、そこにはペトラが立っていた。顔を見るのは昨日の朝会って以来だ。
「おかえり!」
「ペトラ! ただいま〜」
「エミリのお昼、もう取ってあるから食べよう!!」
「え、そうだったの? ありがとう!!」
「お昼には帰って来るって言ってたからね」
親切なペトラにエミリは感謝して、二人でフィデリオとオルオが待っている席へ歩く。
しかし、食堂はかなり込み合っているためなかなか辿り着けそうにない。
「そう言えば、その鉢植えどうしたの?」
道が出来るのを待っている間、ペトラがエミリの持つガザニアをまじまじと見る。
「あ、これね、兵長がくれたの」
「え?」
予想をはるかえに越えた返答に、ペトラは耳を疑った。しかし、エミリが冗談を言っているようには見えない。
「なんか、色々と気を使わせてしまったみたいで……」
「どういうこと?」
話が見えずペトラは眉を顰める。
リヴァイが人にプレゼントを贈る、ということだけでも驚くべき事なのに、それに至るまでの事情が何やら複雑そうだ。
「ご飯食べる時に話すよ。ここじゃ、流石にね……」
兵士が込み合っている中、立ったまま説明をするのは流石に気が引ける。それを察したペトラは、苦笑を浮かべて頷いた。