Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
馬車が兵舎の前に停車し、エミリとリヴァイは車内から降りた。外のおいしい空気を吸い込んで、詰んであった荷物を取り出す。
「あ、そうだ! リヴァイ兵長」
「何だ」
馬車が去った後、兵舎内を歩きながら思い出したようにエミリが口を開いた。
前を歩いていたリヴァイが足を止めて振り返ると、エミリも釣られて歩を止める。
そして、ガザニアの鉢植えを持つ腕をリヴァイの方へ突きつけるように、グイと前に出した。
「プレゼントはすごく有難いのですが、こういうことは、これから好きな人とかにしてあげて下さいね!」
「……あ?」
「私だから良かったものの、他の女の子とかだと勘違いしちゃいますよ!! 兵長、ただでさえ人気者なんですから」
「…………」
「だから、気のない相手以外にはあんまりこういうことしちゃダメですからね!!」
ビシリと言い放つエミリの表情は、全くしょうがないなあ、と言いたげに眉を下げている。
流石のリヴァイも彼女の鈍感さにイラッときた。
(チッ、だからお前にやったんだろうが……)
何故、そこまで気づいているくせにこんなにも鈍いのだろうか。どうやらエミリは、自分だという可能性を思いつかないらしい。
「兵長、わかりました?」
「お前、やっぱり馬鹿だろ」
「え!?」
またもや馬鹿と呼ばれエミリはショックを受けたように驚いた後、ブウと頬を膨らませる。
「また馬鹿って!! 私は兵長のためを思ってですね……!!」
「何が俺のためだ。お前なんにも分かってねぇだろうが」
「失恋続きの私でも、女心くらいは分かります!!」
「そういうことを言ってんじゃねぇよ」
ダメだ、話が噛み合わない。そもそも噛み合うはずもないのだが……
とにかく、周りに人が居なくて良かった。こんな言い合いを誰かに聞かれでもしたらとんでもなく面倒だ、と思った矢先、背後から気持ち悪い視線を感じてリヴァイは恐る恐る振り向いた。
「…………」
曲がり角の壁からこっそりとこちらの様子を伺う奇行種の眼鏡がキラリと光っている。どうやら、一番の厄介者にバレてしまったらしい。
その後、「帰って早速、痴話喧嘩やってたねぇ!」と爆笑しながらリヴァイの執務室に現れた奇行種は、彼の鉄拳をもろに受けたのであった。