Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
ガタガタと馬車がゆっくりと動き出す中、鉢植えを持つ手に少し力を入れてリヴァイの顔を見た。
「……もしかして、兵長の用事って私にプレゼントする花を買うことだったんですか?」
「ああ。そうだが」
腕と足を組みながら窓の外に視線を固定したままのリヴァイの返答に、エミリは大きく目を見開く。
何故、リヴァイがプレゼントを贈ろうと思ってくれたのか……一つだけ、心当たりがある。
「……昨日のこと、気にしてくれてるんですか?」
あれだけ大泣きしたのだ。リヴァイが気にかけるのも仕方が無いかもしれない。だから、少しでもエミリに元気が戻るよう、プレゼントを贈ることを考えたのだろう。
「……そんなんじゃねぇよ」
だが、リヴァイはそれを否定する。しかし、エミリには理由がそれしか思いつかない。
何故、リヴァイが訳を話したがらないのかは分からないが、どんな理由であれエミリが言うことは決まっている。
「兵長、いつもありがとうございます! ガザニア、大切に育てますね!」
優しく抱き締めるようにガザニアを抱えて、礼を述べる。
自分をこんなにも心配し、助けてくれる人がいることに心から感謝して、もう大丈夫だと言葉で伝える代わりに得意の笑顔を浮かべて答える。
「……お前、やっぱりその花似合うな」
「え」
ガザニアの花言葉と同じように”笑顔で答え”て見せたエミリは、とても”きらびやか”で、そんな彼女にリヴァイは優しい眼差しを送る。
ガザニアを選んで正解だった。
「あ、そう言えば、どうしてガザニアだったんですか?」
リヴァイには向日葵が好きとしか話していなかったはずだ。ガザニアの名前すら出したことはないし、リヴァイが知っていたとは思えない。
「俺は、向日葵よりもガザニアの方がお前に似合っていると思っただけだ」
「そうなんですか」
「……向日葵の方が良かったか?」
チラリとエミリの様子を伺いながら問いかけるリヴァイに、エミリはふるふると首を振って否定の意思を示す。
「そんなことないです。ガザニアも私の好きな花ですから!」
それはガザニアをプレゼントしたリヴァイへの気遣いの言葉ではなく、エミリの本心だった。