Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「……兵長、まだかな……」
朝食の後エルヴィンと別れたエミリは、自分とリヴァイの荷物を持って、馬車の中で参考書を読みながらリヴァイの帰りを待っていた。
腕時計を確認してみると10時を超えたところだった。エルヴィンは、すぐに帰って来るだろうと言っていたが、用事が長引いているのだろうか。
眠たくなってきたエミリは、ふわぁと大きな欠伸をする。
そこへ、ガチャリと馬車の扉が開く音がして慌てて口を閉じた。
「待たせたな」
「兵長! どこ行ってたんですか? あれ……」
ようやく戻って来たリヴァイに問いかけるエミリだが、ふと彼が抱えているものが目に入る。
リヴァイの手には、可愛らしくラッピングされたガザニアの鉢植えがあった。
何故、リヴァイがそんなものを持っているのだろうか。誰かに貰ったのだろうか。
エミリの頭に疑問符が浮かぶ。
「兵長、そのガザニアどうされたんですか?」
エミリの向かい側に腰を下ろしたリヴァイに、違う質問を投げかける。
リヴァイは何も答えずチラリとエミリを見てから、スッと無言で鉢植えを差し出した。
「……え」
「お前にやる……」
「はい?」
「だから、お前にこの花をやるっつってんだ」
「……えっと、つまりこれは、兵長からのプレゼントということですか?」
「そうだ。見りゃ分かるだろ」
いきなりガザニアを渡されたエミリは、リヴァイとガザニアを交互に見ながらそれを受け取る。
「……あの、一体どういう風の吹き回しですか?」
まさか、リヴァイからプレゼントを贈られる日がくるなどとは思っていなかったから、今かなり驚いている。
「何だ? ガザニアは嫌だったか」
「いや、そういうことを聞きたいのではなくてですね……」
微妙に話が噛み合っていない。
だが、今のリヴァイの発言とラッピングされた鉢植えから推察するに、わざわざ花屋まで足を運んで選んでくれたのだろう。