Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
その花は、向日葵と比べるととても小さく見える。けれど、不思議とリヴァイの目を引いた。
この花の名前が知りたくてネームプレートを見る。そこにはガザニアと書かれていた。
「……ガザニア……」
忘れないように静かに呟いて、両手でその鉢植えを抱えた。
ガザニアは、出入口から店内に吹き抜ける風によって、ゆらゆらと気持ち良さそうに揺れている。
「お決まりになりましたか?」
ガザニアを眺めていると、女性店員がリヴァイに声を掛ける。しかし、リヴァイの視線はガザニアに固定されたままだ。
向日葵と同じ黄色の花。だけど、大きさは全然違う。向日葵ほどの存在感は無いが、それでもとても美しく可愛らしい。
「……このガザニアってのは、どういう花なんだ?」
もし贈るならこれがいいと思った。だけど、流石に直感だけを頼りにしたくはない。
この花がどういったものなのか、人間からどう慕われてきたのかが知りたい。
「ガザニアは、花姿が勲章に見えることから勲章菊とも呼ばれています。花言葉は、『博学天才』や『きらびやか』、『身近な愛』、そして……『笑顔で答える』など、たくさんの言葉があります」
女性店員が花言葉を口にする度に、エミリの顔が脳裏をよぎる。
リヴァイの頭の中で、ガザニアの鉢植えを持って眩しい笑顔を浮かべていた。
(『笑顔で答える』か……)
どの花言葉も魅力的だが、リヴァイが一番惹かれた言葉がそれだった。
どんなに辛いことがあっても、涙を流しても、母親の教えを胸に最後は明るい笑顔で前を向いて行く姿が、その花言葉から連想される。
「……この花がほしい」
「ありがとうございます。誰かへのプレゼントですか?」
「ああ……」
「でしたら、花束にもできますが」
「いや、これでいい」
花束ではなく鉢植えのまま渡したい。自分が贈った花をずっとエミリの手で育ててほしい。そして、いつでも自分を思い出してほしい。
彼女ならきっと愛情込めて世話をしてくれるだろう。
(……俺もなかなか独占欲が強いらしいな)
嫉妬深い女は嫌いだが、恋を知ったせいでこれからその考えは、自分を棚に上げることになってしまう。
可愛らしくラッピングされた鉢植えを手に店を出たリヴァイは、太陽に向かって花開くガザニアを想い人と重ねて優しく微笑んだ。