Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
一方、急用ができたというリヴァイは、現在花屋の店の中に居た。
昨日、ピクシスたちと待ち合わせに向かう途中で、エミリが見つけた向日葵を置いている花屋だ。
あの時の彼女の表情が頭から離れなくて、そんなに向日葵が好きなら自分から向日葵の花束でも贈ってやろうかと思っていた。
けれど、実際にこうして手に取ってみると昨日と同様に、モヤモヤとした感情が支配していく。
その正体も気持ちを自覚した今ならわかる。これは”嫉妬”だ。
リヴァイに対する憧れではなく、恋愛対象として思われていたエミリの元想い人たちへの嫉妬。
だから、向日葵を見ても良い気分にはならないのだろう。
この向日葵が、エミリが以前恋した男たちを彼女に思い出させるから。
(チッ……面倒くせぇ……)
イライラして仕方が無い。
もしこれでエミリに向日葵をプレゼントしたって、思い出すのは想いを寄せていた二人だろう。
振り向かせるどころの話じゃない。
(別の花にするか……?)
そう思い店内を見回してみるも、そもそも花のことなんてリヴァイにはさっぱりわからない。まず興味も無かった。
だけど、最近少しずつ植物に反応するようになってきたのは、やはりこれもエミリの影響だろう。
花束を贈ろうと思ったことすら一度もない。
あるとするなら、自分で壁内に作ったファーランとイザベルの墓に花を添えに行ったくらいか。
エミリが好きな花だって、向日葵しか情報が無い。
(クソ、どうする……)
どんどん眉間に皺が寄る。
エミリが好きだという花を贈りたい。けど、向日葵は嫌だ。なら、他に何を贈る?
手に持っていた向日葵を元の場所へ戻し、少し斜め後ろに視線を動かした。
「……あれは……」
そこへリヴァイの目に入ったのは、小さな白い植木鉢に咲いている小さな黄色の花だった。