Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「朝食がまだだろう? 私もこれからだから、一緒にラウンジに行こうか」
「はい!」
エミリは荷物を持ったまま、エルヴィンと共にラウンジへ足を運ぶ。
既にチラホラと客が出入りする中、席に着いて注文を終えたエミリは、長い溜息を吐いた。
朝起きて寝坊だと気づいた瞬間からずっと焦っていたため、ようやく一息ついた気分だ。
(いつもはもっと早起きなのに……やっぱり、昨日の夜たくさん泣いたから、かな?)
昔のことを思い出して大泣きして、いつの間にか眠っていたせいでその後の記憶が全くない。
(……また、兵長に助けてもらったなあ)
抱き締めて、言葉を掛けてくれた。
きっと、エミリが眠るまでずっとそうしてくれていたのだろう。
だからこんなにも目覚めが良いのだろうか。
(また、お礼言わなきゃ)
心がとても軽くなった。鎖で繋がれていた重しが手足から外れたらこんな感覚なのだろうか。
例え方が極端だが、それほど自分は過去の出来事に囚われていた。
「今日は元気そうだな」
ぼーっと一人で物思いに耽っていると、向かい側に座るエルヴィンが穏やかな笑みを浮かべていた。
彼の持つ白いカップからは、珈琲の芳ばしい香りが漂ってくる。
「もう大丈夫なのか?」
「はい! ご心配をお掛けしました」
「そうか、なら良かった」
昨日はずっと朝からエミリの様子が可笑しかった。エルヴィンも密かに気にかけていたが、それもおそらくリヴァイが解決してくれるだろうとあまり心配はしていなかった。
本人たちには内緒の話だ。
「ところで、兵長は何処へ?」
「行き先は私も聞いていないんだ」
「そうなんですね」
馬車を遅らせるほどなのだから、よっぽど大切な用事が入ったのだろう。しかし、エルヴィンも知らないということは、兵団関係の事ではないようだ。
「私も急用ができて、朝食を終えたらナイルと王都へ向かう。リヴァイが戻って来たら二人で先に馬車で兵舎に帰ってくれ」
「わかりました」
エルヴィンの話にコクリと頷き、エミリは朝食のサンドイッチを齧る。
パンの間に挟まれている卵がとても美味しかった。