Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「……あぁぁああ!!!」
宿から轟く叫び声に、木の枝に止まっていた小鳥たちが驚いてバサバサと羽を広げて飛んでいく。
その直後、ドタドタドタとけたたましい音が宿の一室から鳴り響いた。
その犯人は、寝起きで髪がボサボサのエミリ。
ブラシを持ってせっせと髪を解いている。
「もう〜〜!! 本当に信じられない!!」
髪を必死に整えるエミリの表情は今にも泣きそうだ。
目が覚めると時計は9時を回っていた。
確か、迎えの馬車が宿を発つ時間はエミリが今起きた時間の予定だ。
そう、寝坊してしまったのだ。
その焦りとショックから出た叫び声が冒頭のものである。
急いで髪を後ろで一つに束ね、今度は顔を洗うために洗面所へ移動する。それが終われば兵団服を手に取りダッシュで着替えを始めた。
「だ、団長と兵長、もう起きてるよね!? 置いていかれてたらどうしよう……!! や、流石にそれはない……よね?」
ブツブツと呟きながら荷物を整理する手を動かす。
リヴァイなら寝坊するようなやつ放っておけ、なんてことを言って先に帰っているかもしれない。
リヴァイならやりそうだ。
想像で青ざめたエミリは、荷物を持ち急いで部屋を出た。
「エミリ」
部屋の鍵を閉めていると、隣から名前を呼ばれてバッと振り向く。
そこには、もう宿を出発して居ないのではないかと思っていたエルヴィンが立っていた。
「だ、団長……! おはようございます!! あの、すみません。寝坊……」
「ああ、気にすることはない。リヴァイが用事があるとかで、馬車の時間を遅らせたからな」
「……え、そうだったんですか?」
エミリはホッと胸を撫で下ろした。
寝坊してしまったが、あまり怒られないかもしれない。リヴァイに急にできたという用事に感謝した。
「はは、リヴァイに置いていかれると思ったか?」
「な、なんでわかるんですか……」
「顔に書いてある。君はわかりやすいからな、考えていることはすぐにわかる」
軽くショックを受ける内容にガーンと肩を落とす。
それだけ素直だということだが、人に誤魔化しが効かないという意味では、これまでも散々苦労してきたから。