Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
自分の宿泊部屋へ戻ったリヴァイは、そこで初めて時計を確認した。
もう時刻は8時を過ぎたところだった。普段は6時までには自然と目を覚ますが、いつもよりも2時間も多く眠っていたらしい。
これが好きな女と眠った効果のようだ。
睡眠時間も多く熟睡もできるとは、エミリを抱き締めて眠った方が健康的なんじゃないだろうか。
顔を洗い終えたリヴァイは、寝間着から兵団服へ着替えすぐに宿を出られるよう荷物を整理する。
そうこうしている内に、時計は8時半を回っていた。
確か、目当ての店は9時開店だったか。
先に朝食を済ませてしまおうと、宿のラウンジへ移動した。
紅茶とモーニングセットを頼み、なるべく端の静かな席へ着く。
先に運ばれてきた紅茶に口付けながら考えるのは、やはりエミリのこと。
というか、自然と彼女の顔が頭に浮かんでくるのだ。
窓の外を見れば、男女が手を繋いで仲睦まじく歩いている。とても幸せそうだ。
もし、エミリと恋人にでもなったら、自分たちもあんなことをするのだろうか。そんな考えが頭に過ぎる。
「……悪くねぇな……」
小さく静かに微笑んで紅茶を喉に通す。
そう思うのもエミリが好きだから。特別だから。
今までのリヴァイなら、こんなことを考えるなど有り得なかった。
愛する人とずっと共にいたいと願う恋人たちの気持ちが理解できなかった。
けれど、それも今ならわかる。
(好きな女ができた瞬間これか。俺も都合の良いやつだ……)
気持ちを自覚したばかりだが、早くエミリを手に入れたくて仕方が無い。
だけど、まだ彼女に気持ちを伝えるつもりは無い。どう考えても振られるのが目に見えているからだ。
彼女は真面目だから。想いを寄せていないリヴァイに告白されても断るに決まっている。
だから、振り向かせるしかない。
だが、相手はエミリだ。
一筋縄ではいかないだろう。きっと彼女はとてつもない鈍感馬鹿だから。
けど、そんな彼女だから好きになった。
遠慮はしない。
とことん攻めて、必ず落としてやる。
不敵な笑みを浮かべたリヴァイは、運ばれてきた朝食のパンを手に取った。