Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「好きだ」
気持ち良さそうに眠るエミリに、静かに想いを告げる。
勿論、エミリには届いていない。
それでもいい。彼女を好きだという事実を噛み締めたかった。
前髪を優しく払い、その手を頬へ滑らせる。そして、親指で優しくエミリの形の良い唇をなぞる。
この小さな唇にキスをしたい。触れたい。
指で触れ、見ているだけなのに、胸が熱くなっていく。
これまで自分から女にキスをすることは無かった。
向こうが勝手にやってくる。それをリヴァイはただ受け入れていただけ。
したいと思ったことなんて一度も無い。
だけど、エミリは違う。
自分の中で一番大切なヒトで、好きだから、その赤い唇に口付けをしたい。
少しくらい、良いだろう。
リヴァイの耳元で、悪魔が囁く。
この恋は、リヴァイの片思いだ。
エミリはリヴァイのことを兵士として尊敬しているのであって、恋心を抱いているわけではない。
だから、もしキスをしたのがバレてしまったら、きっとエミリは怒るだろう。
でも、今は眠っている。
きっと、気づかれない。
欲に負けたリヴァイは、ゆっくりと顔を近づけていく。
もしバレてしまったって、エミリを振り向かせれば良いなどと、都合の良いことを考えて開き直る。
そのまま、ゆっくりとエミリの唇に自分のそれを重ね合わせた。
(……柔らけぇ)
思っていた以上に、エミリの唇の感触が気持ち良くて、もう少しだけこのままと目を瞑って柔らかさを堪能する。
感情のあるキスが、こんなにも心地良いものだとは夢にも思わなかった。