Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
エミリはギュッと布団を握り顔を隠す。泣き顔を見られたくないから。
頬や枕は涙でびしょびしょで冷たい。
強く目を瞑り、リヴァイの言葉を待っていた。
そんな時、布団の上から重みを感じた。エミリは何事かとビクリと身体を震わせる。
「……エミリ」
耳元で聞こえたリヴァイの声に息を呑む。耳は布団に覆われているが、彼の声はハッキリとエミリの耳に入り込んできた。
布団を握る指に力が入る。そんなエミリの手にリヴァイは優しく手を添えて、彼女の顔が見えるところまで布団を下げた。
「……兵長?」
涙で濡れたエミリの瞳が不安げに揺れリヴァイの顔を捉える。
そんな彼女の頭をあやす様に撫でながら、リヴァイは口を開いた。
「……もう、いい……」
「……え」
短いその言葉の意味が解らなくて、エミリは小さく声を漏らした。
「……もう、それ以上、お前自身を責める必要はねぇ」
ハッとしたエミリは、その琥珀色の瞳を大きく揺らした。
見るのが怖かったリヴァイの顔は、いつもの無表情ではなくとても苦しそうに歪んでいた。
それを目にしたエミリの心臓がドキリと跳ね上がる。
「泣くほど責めて、傷ついて……そんだけ辛い思いすりゃあ、もう十分だろう。もう……許してやれ」
「……へ、ちょう……」
リヴァイの言葉がすっとエミリの心に溶け込んで再び涙を誘う。
「だから、傷つくことが当たり前だなんて……思うんじゃねぇ」
エミリの目の端に溜まる涙を人差し指でそっと払ってやる。それでも涙は止まることなく、リヴァイの指を濡らしていった。
「大体、お前は責任感が強すぎるんだよ。怪我をさせちまった奴の足は、もう治ってんだろ?」
「……は、い……」
「なら、もう解決してるじゃねぇか。それをグチグチ言うやつの方がどうかしてんだ」
リヴァイはエミリの頬に手を添え、親指で優しく撫でながら、しっかりと彼女と目を合わせた。