Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「…………ぜんぶ、はなしましたよ」
その声は、話を始めた時よりも酷く震えていた。
エミリはずっとリヴァイに背を向け、布団にくるまっているが、顔を見なくても声を聞けばわかる。
泣いているのだと。
「……わた、しが……ずっと落ち着かなかったのは、ガウナやザーラと会うかもしれないって、思ってたからです」
その二人は駐屯兵団所属だから。もしかしたら、今日会っていたかもしれない。
そう思うと不安で仕方がなかった。
あの二人とはもう、関わりたくない。
できれば、会いたくない。
それくらい、二人への警戒心は強かった。
「……まあ、でも……会ったところで、あの二人は何でもない顔するんでしょうけど」
ああいう人ほど、自分がやったことを忘れて何事も無かったかのように話しかけてくるから。
だから、二人に会うことなく会議を終え駐屯兵団本部を出た時は、心の底からホッとした。
深い溜息と共に身体の力が抜けた。
エミリが話を止めたことで静まり返る部屋。
カチカチと時計の音が響き、またそれが違う緊張を誘う。
リヴァイは何も話さない。
それが、また怖かった。
何を言われるのだろう。
この話を聞いて、リヴァイはどう思ったのだろう。
この静寂が続けば続くほど、呼吸が辛くなっていく。
(……呆れてる、かな?)
ガウナやザーラを悪く思っているが、さっきも言ったように事の発端は全て自分が友達を傷つけたせいなのだ。
もちろん、わざとじゃない。でも、そんなことを言ってもそれはただの言い訳になるから。
何より、彼女たちはわざとかそうでないかなど関係ない。
どっちであろうが、友達を傷つけたという事実に腹を立てていたのだから。
(……そういえば、意味不明な誤解なんかも流されてたなあ)
ザーラを通して聞いた話だが、怪我をさせたその子のことでエミリが、『自分の未来のために謝る』なんて言っていた、とそんなデマが流れていた。
そんなこと言っていない。
そもそも、まずその言葉の意味をこっちが教えて欲しいくらいだ。
こうして思い返してみれば、そんな事があった中よく毎日休まずに訓練に参加していたものだ。
相手の思う壺なんて、真っ平御免だったから。休むという逃げの手段だけは、使いたくなかった。