Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
……誰かを信じるのが、怖くなった。
あの後、エミリは適当にザーラをあしらって追い返した。
どんな会話をしたのかなんて、覚えていない。
もう、口を利きたくなかった。
顔すら見たくなかった。
何より、すごく面倒だった。
明日は座学のテストだというのに、暇人なやつらだと彼女らを心の中で罵倒しなければ、正気を保てなかった。
それがどれだけ醜いことであることかはわかっている。
だけど、その時エミリの中で絆というものが完全に冷めていた。
それでも、腐れ縁のフィデリオやずっとエミリに寄り添って、話を聞いてくれた友達や後輩のことは信じていられた。
「…………でも、ちゃんとわかってるんですよ。自業自得だって。あの時、私が友達に怪我させなければ、そもそもこんな事にはならなかった。全部、私が蒔いた種なんです」
でも……この仕打ちはあんまりじゃないだろうかと思ってしまう。
だけど、この時エミリにとって一番最悪だったこと……それは、ガウナのことだ。
彼女は訓練兵団に入って初めてできた友達。
その分、やはり思い入れがあったし、この縁を大切にしていこうと思った。
そんな中、ガウナは一度だけ男子と問題を起こし、一時期同期の女子たちから敬遠されていたことがあった。
皆がガウナの陰口を繰り返す中、エミリだけはずっと彼女のそばに居た。
もちろん、陰口なんて言ってない。
大切な友達だから、ガウナを支えたい、守りたいと思った。
それだけ、大切に思っていた。
なのに、蓋を開けてみればこの有様だ。
すごくショックだった。
ガウナは友達を思う優しい心を持っている。だから、友達を傷つけたエミリを許せなかったのだろう。
だから、惜しい人だと思った。
せっかく友達を心配する優しい心を持っているのに、どうして誰かを傷つけることに無頓着なんだろうと。
……ああ、本当に醜いなあ。
エミリが言ったその言葉には、自分自身も含まれていた。
だって、こうやって誰かを蔑まなくちゃ……苛立ちは収まりそうになかったから。