Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
再び面倒事が起きたのは、座学のテストを控えた前日のことだった。
一人で自習していたエミリの元に、ザーラという名の女の子が声を掛けてきた。
その子もガウナとの揉め事で中立をずっと名乗り、そして、唯一エミリの元へ謝りに来なかった子だ。
「嫌な予感はしていたんですよ。ガウナは、遠くからこっちの様子をチラチラと伺っていたし……」
そして、その予感は見事に的中した。
ザーラにどうしたのかと問えば、彼女は何でもないような顔で切り出した。
『実は……ガウナがまた怒ってるの。エミリと二人が仲良くしているのが鬱陶しいって。……だから、悪いんだけど、あの二人とはあんまり関わらないでくれるかな?』
それを聞いた時、流石のエミリも呆れた。
要は、ガウナは自分のテリトリーに入ってくるな、と言いたいのだろう。
それでも、何故、友人関係まで口出せされなくてはいけないのか。訳が分からなかった。
唖然とするエミリを放って、ザーラは更に続けた。
『エミリが二人と仲良しなのは分かるけど、そのせいでいつも4人一緒にいる私たちの雰囲気まで悪くなっていって……』
そんなの知るか。
それはあんたらの問題でしょう。
そもそも、言いたいことがあるならガウナ本人が言ってきなさいよ。何でわざわざザーラを使うの?
自分から何も言えない人の言うことを何で私が聞かなくちゃいけないの?
真っ黒な感情がどんどん沸いてくる。
だけど、それ以上に次の言葉にエミリは絶望した。
『その、私もね……ガウナと同じであの二人とは距離を置いてほしいと思ってるの。あの二人とまで仲が悪くなるの嫌だし……』
ザーラは、ガウナの意見に賛成していた。
疑問を持っている様子もなかった。
ガウナとザーラは、どうやら訓練兵団に入る前からの幼馴染だったそうだ。
だから、お互いのことはよく分かっている。親友だ、なんてザーラはこの前エミリに話していた。だが……
ちょっと待ってよ。
友達なら、そこは普通……間違ってるって止めるべきなんじゃないの?
その時からか、友達とは、親友とは何なのだろうと疑問を感じるようになった。
そして、どうして人間という生き物は自分の愚かさにこんなにも疎いのだろうと、目に映る世界が真っ暗闇なものへ変わった。