Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
そのまま宿へ戻り、リヴァイはエミリに明日の出発時間を伝えてから部屋に入って行った。
エミリも大きな欠伸をしながら部屋に入る。
とりあえずシャワーでも浴びようかと入浴セットを持って脱衣所へ向かった。
体にタオルを巻いて浴室に足を踏み入れると寒さからブルリと体を震わせる。
そろそろ季節も秋に近づいてきたせいか、最近は夜も冷えるようになってきた。
タオルを外し濡れない場所へ置いてからシャワーを出す。温かいお湯を頭から被ると体が徐々に温まっていく。
(……今日は疲れた)
朝からずっと同期と会わないか警戒していたため、要らぬ労力を使った気分だ。
深く息を吐き、頭と体を洗っていく。
まだ気持ちが落ち着かない。
それは、駐屯兵団に訪れたことによって過去の出来事を鮮明に思い出してしまったからだろう。
調査兵団に入ってから、その出来事を思い出す機会は減っていた。最近では軽く忘れていたくらいだ。
それは、ペトラやオルオたちが居てくれたから。
壁外調査のため訓練で忙しいことも理由の一つだが、それでも新たに出会った友人、優しい上官、頼れる先輩、皆がそばに居てくれたから、嫌な記憶も薄れていたのだろう。
「ダメだなあ……わたし……」
そろそろ、区切りをつけて乗り越えなければならない。もうあれから、二年以上は経っただろう。
いつまでも引き摺っていては仕方の無いことなのに、思った以上に自分が受けた心の傷は深かったようだ。
「…………やっぱり、勉強しよう」
さっきまではリヴァイたちと共に過ごしていたが、一人になると思い出してしまう。
このまま寝ようとベッドに横になっても、昔のことを考えてしまうだろう。
悪い夢でも見そうで、正直すごく怖い。
少しでも気を紛らわせるためには、勉強に集中するのが一番だ。
目元が熱くなる。
そこから溢れ出たものは、シャワーで浴びたお湯と混ざり合って頬を伝った。