Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
注文を終えるとすぐに、トレーに乗せられた数本の酒が運ばれてきた。
店員はそれを机の上に並べると、軽く会釈して持ち場へ戻って行く。
「あの、お酒注ぎましょうか……?」
今いる中ではエミリが一番階級が下だ。ならば、エミリが酌をするのが礼儀というもの。
「では、頼もうか」
「はい!」
エミリは酒瓶を手に持ち蓋を開けて席を立った。まずは司令のピクシスから順にエルヴィン、リヴァイ、グスタフ、アンカ、そして最後にハンネスのグラスへ酒を注ぐ。
「……なんかよォ」
「何?」
酌を終えたエミリが席に着くと、彼女の顔を頬杖をつきながら見つめるハンネスに、エミリは顔を歪める。
「お前が酌してんの見ると、益々カルラに見えてくんだよ。今日は髪型まで同じだしな」
「あ〜そう言えば、母さんって父さんと結婚する前は酒場で働いてたんだっけ?」
「ああ」
ハンネスの発言から、小さい頃にカルラから聞いた話を思い出す。
エミリは母親似だから、ハンネスがカルラとエミリを重ねて見てしまうのも頷ける。
「それはそれは、美人で有名だったんだぞ〜。見た目も勿論あるんだが、なんつーか……あいつ、あれでさっぱりした性格してたからなァ。それでいて、面倒見も良くて優しくて、男性客からも人気でな。すっかりその店の看板娘だったな」
「へぇ〜」
これは初めて聞く話だ。カルラからは、酒場で働いていたという話しか聞いていなかったし、彼女は自慢話などをするような人では無い。
エミリはそんなカルラを母親としてだけでなく、人として、また一人の女性として憧れていた。
見れなかった母の姿を知れた喜びで胸がいっぱいだったが、客から慕われ人気者だったという事実に誇らしさも感じた。
「ほう、それほどの美人じゃったのか。会って見たかったのう」
「司令はそればかりですね………」
酒のせいで少し頬が赤いピクシスに、アンカが冷たい視線と言葉を浴びせる。
「見た目については……まあ、エミリとそっくりですから。ただ……」
眉を寄せ少し難しい顔を見せるハンネスに、エミリは首を傾げる。
『ただ……』その次は何よ。早く言いなさいよと目で訴えていると、ハンネスはエミリを一目見てから大きく溜息を吐いた。