Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「ご注文はお決まりになりましたでしょうか?」
そこに、男性店員がエミリ達の座っている席へ、メモ帳とペンを持って声を掛けてきた。
エミリ以外、食べる物が決まっているピクシスらは次々と料理名を店員に伝えていく。
それを聞きながら、エミリは慌てて何を食べるか考えていた。そこへ、あるメニューが目に入る。
「おい、決まったか?」
決まっていないのはエミリだけ。リヴァイが未だにメニュー表に齧り付いているエミリに話しかける。
すると、エミリはメニュー表を店員に向けて、”あるメニュー”に指を指した。
「あの、私はこれで」
「はい…………えぇ!?」
店員がいきなり声を上げたことで一体何を頼んだんだとリヴァイ達は疑問符を浮かべる。
「お嬢ちゃん……これ、本気で食べるつもりかい?」
「食べたいです!!」
「いや……でも、これ……」
渋る店員に何だとエミリの向かいに座っているハンネスがメニュー表を覗き込む。
「はぁ?! ”大盛りスパゲッティ 30分以内で完食せよ!!”!? お前これマジで食うつもりか!!」
「うん!」
「いや、『うん!』じゃねぇよ!!」
料理名というかキャッチコピーに近いそれに、リヴァイとグスタフとアンカは少しだけ頬を引き攣らせる。エルヴィンとピクシスは大体予想できていたのか、いつもと変わらぬ様子でお冷を飲んでいた。
「お嬢ちゃん……? この大盛りスパゲッティ、大人の男の人でも時間内に食べきれなかったんだよ? 本当に食べるのかい?」
「はい! 食べたいです!!」
朝から緊張しっぱなしで、午後は会議で集中力を使い、さっきからお腹がペコペコで仕方が無かった。
「いま、猛烈に食べたい気分なんです!! それに、時間内に食べ終えることができたらタダなんだよ!!」
これは無料で大盛りスパゲッティを食べられるチャンスであり、時間内に食べ切ることができれば値段の心配をせずに済む。
なんて素晴らしいメニューなのだろうと、エミリは目をキラキラ輝かせている。
「というわけで、コレお願いします!!」
固まる店員にエミリは満面の笑みで注文した。
エルヴィンとピクシス以外の四人も、店員同様ピシリと凍りついたまま、無表情でエミリを見つめていた。