Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
エミリと初めて会話をしたのは、そう……彼女が新兵として調査兵団に入団した次の日、乗馬場でリノを連れたエミリと二人きりになった時だった。
あの時は、彼女に対して少し興味はあったが、かと言って注目していた訳でもなかった。
けれど、確かにこの時から気にはなっていた。
そんな、最初は気になる程度だった存在が、”変わった奴”となったのは、彼女が初めての壁外調査を終えた夜だった。
エミリが持つ信念。
それを話す彼女の姿に不思議と惹きつけられ、目が離せなくなっていた。
あの真っ直ぐとした汚れのない瞳が、とても印象的だったことを今でも鮮明に覚えている。
だけど、実際に彼女の人柄や心に触れたのは、ホフマン家と出会ってからだった。
自分よりも大切な人の幸せを優先するエミリの優しさに触れて、そんな彼女を支えていきたいと思うと同時に、とんでもない無茶をしでかす馬鹿を守ってやらなければと思い始めた。
その辺りからだったか、これまで以上にエミリを気にかけるようになったのは。
入院している時だって毎日見舞いに行った。
復帰してから壁外調査へ出た時だって、頭の隅ではエミリが心配で仕方が無かった。
そして、その調査で更にリヴァイの中でエミリという存在が大きくなった。
彼女のお陰で、リヴァイの班員は助かった。
部下を壁外へ置き去りにしなくて済んだ。薬の効果で激痛に苦しめ続けられることもなく、壁内へ生きて帰還することができた。
兵団本部へ戻る帰路で、いつものように民衆から罵声を受けたが、それでも不思議とリヴァイの心はいつもと違って少しだけ穏やかだった。
いつもと比べて命を落とした兵士は少なかった気がする。
それも、エミリがいてくれたからだ。
寝る間も惜しんで薬を作り続けるエミリには呆れたし、心配もさせられたが、それでも彼女が居なければまた部下を死なせてしまった罪悪感に苛まれ続けていただろう。
(……俺にとって、あいつは何だ?)
大切な部下に違いはない。けれど、それだけでは言い表せない特別な存在であることに違いはない。
エミリと居ると自分らしく無くなる理由もきっと、そこにある。