Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「……あいつは、いつも誰かのために無茶をするような馬鹿だ」
とにかく、ピクシスの問いに答えようと言葉を選びながらゆっくりと口を動かす。
「ほう?」
「……だが、それはあいつが優しいからなんだろうな。だから、放っておけない。守ってやりたいと思った」
脳裏に浮かぶのは、太陽のような温かい笑顔を乗せたエミリの顔。
その笑顔を守りたいから、ずっと笑っていてほしいから、悲しみの涙で濡れてほしくないから、だから……エミリのそばにいて守りたいと思うようになったのだ。
「そこまで答えが出ておるのに、全く気づかんとはな」
「そうですね。私もまさか、リヴァイがここまで鈍感だとは思いませんでした」
「おい」
明らかに貶されている。その上自分だけ置いてけぼりで話を進められる。
収まっていたイライラが再び湧き上がる。
「お前も随分、手のかかる奴じゃのう」
「あ?」
「リヴァイ、お主がエミリに抱いている感情の名を教えてやろう。それは──」
ピクリと眉を動かす。
平静を装いながらも戸惑いを隠しきれていないリヴァイに、ニヤリと口角を上げたピクシスはゆっくりと口を開いた。
「”恋”というものじゃ」
「っ!?」
リヴァイの細い目が大きく開かれた。
恋。
その言葉にドクンと大きく胸が高鳴る。
(何だ、これは……)
忙しなく動く心臓に、少しだけ息が苦しくなる。
初めて……ではない。前にも何度か感じたことがある。
そう、確か……
エミリが薬剤師試験を受けたいとエルヴィンの元へやって来た時、彼女が団長室を出て行った後にも同じ感覚が心を支配した。
まさか、ピクシスが言った通り、本当にエミリに恋心を抱いているのだろうか。
いや、だが……恋など自分には一生縁が無いものだと思っていた。
本気で添い遂げたいと思う女なんて現れるわけない。
くだらないものだと切り捨てていた。それは、地下街にいた頃からそうだった。
それなのに……
チラリと後ろを振り返る。目に映るのは、笑顔でハンネスと会話を交わすエミリの姿。
彼女を見ていると胸が締め付けられる。だけど、辛くはない。
それよりも、彼女を抱き寄せてこの腕に閉じ込めてやりたいと思う。
どこにも行かないように……